日本版SOX法(J-SOX)対応で最も手間がかかるとされているのが文書化作業。その手間を軽減するのが、「文書化テンプレート」だ。その実体は、SOX法対応で必要となる文書の記述例が記載してあるWordファイルなど。選択時のポイントは、必要な文書の種類、ツール利用の有無、記述の細かさ、の3点である。

(矢口 竜太郎)


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 昨年末から今年前半にかけて、「文書化テンプレート」が続々と販売開始された。昨年11月には、日立製作所が「内部統制テンプレート/JSOX」を、富士通も同月に文書化ツール「Valuevision Modeling Tool」のオプションとして、テンプレートを提供し始めた。みずほ情報総研が同時期に発売した「内部統制文書化テンプレート」など、特定の業種に特化したものもある。

 さらに、Bizコンサルティング、アグリーメントといったコンサルティング会社、丸紅ソリューションや三菱電機インフォメーションシステムズといったインテグレータも今年から販売し始めた。現在、「文書化テンプレート」と名が付く製品は、国内に少なくとも20種は存在する状態だ。

 各社がテンプレートを提供するのは、日本版SOX法対応で、具体例を希望する企業のニーズが高いため。「内部統制の説明は十分なので、早くテンプレートが見たい、という顧客も出始めた」(NECのITプラットフォーム販売推進本部の伊藤順子商品マーケティンググループマネージャー)。

 テンプレートの多くは、マイクロソフト製オフィスソフトの、ExcelやWordのデータ・ファイル。価格は、無償のものから500万円を超えるものまで幅広い。1部100万円を超えるものが多く、全般的に、Excelファイルとしては高額な商品である。

 その理由は、テンプレートには「文書化のノウハウを詰め込んである」(丸紅ソリューション ビジネスソリューション事業部営業企画室の梅澤正昭BPM推進課長)からだ。実際には、文書の実例が記述してある。これらを基に自社向けの文書を作成すれば、文書化作業の負荷軽減が見込める。

違いを「上書き」すれば完成

 一般に文書化作業とは、いわゆる“3点セット”を作成することを指す。3点セットは、(1)業務の手順を図示する「業務フロー図」、(2)業務中のリスクとその対策を表にする「RCM(リスク・コントロール・マトリックス)」、(3)業務の詳細を文書で記述する「業務記述書」、という3種類の文書。これらにより、業務実態を明らかにし、リスクに対して統制が利いていることを自社でチェックしたり、外部監査人に説明したりする。

図●文書化テンプレートを使用した場合の作業の流れ
 文書化作業における、テンプレートの使い方はいたって簡単だ。購入時の状態ですでに、受注、購買、在庫管理、財務管理など一般的な業務について、3点セットなどの文書がそろっている。自社の業務とそれらの文書を照らし合わせ、異なっている部分を「上書き」すればよい()。

 例えば、自社の業務の流れがテンプレートと異なる場合は、その部分を追加したり、削除したりする。使っている用語が違う場合は変換すればよい。その企業では発生し得ないリスクが記載されていれば削除する。

 テンプレートを使うと、業務上のリスクの洗い出しを簡単にする効果もある。「事業部の担当者に財務の視点からリスクを提示してもらうことは難しい。しかし、テンプレートで代表的なリスク例を見せ、同様のことがあり得るかを判断してもらうことは簡単」(アビームコンサルティングの永井孝一郎プリンシパル)。

 業務内容やリスクをどの程度まで詳しく記述するかを、そろえやすいのもメリットだ。文書化の作業は通常、複数の担当者で当たる。その際、記述の仕方が不統一になりがちだが、そうした事態を防ぎやすい。

 ただし、テンプレートに頼り過ぎてしまうと落とし穴にはまる。「“元ネタ”があるだけに、企業の実態と違う部分が残ってしまう可能性がある」とべリングポイントでSOX法対応などを手掛ける佐藤肇ディレクターは指摘する。もし、「後からそれが判明したら、調査し直すので工数が余計増える」(同)。「内部統制の目的を十分理解していないユーザーがテンプレートだけを購入してしまうのもリスクが高い」と語るのはIBMビジネスコンサルティングサービスの渡邊達雄パートナー。内部統制の本来の意義ではなく、文書化だけに走ってしまう可能性があるためだ。

 このようにテンプレートの購入時には注意が必要だが、それをクリアすれば有用であることは間違いない。では、どのような観点からテンプレートを選択すればよいのか。比較のポイントは大きく3つある。(1)購入する文書の種類、(2)ツールの利用、(3)記述内容だ。


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