高速かつ網設計が不要なWANサービスが利用でき、LANも末端まで100Mビット/秒のスイッチが当たり前になった。低速なネットワークをいかに使いこなすかに苦心する必要がなくなったはずだが、ネットワークが原因のシステム障害はなくならない。それはなぜか。どうすれば脱することができるのか。

(市嶋 洋平、小原 忍)

【WANサービス】障害多発のアクセス回線を見える化
【社内トラブル】新しい課題には新技術で対抗
【2007年問題】インフラ軽視を改め組織対応を強化


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ6月11日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「この1年で役員に報告した障害」の原因で最も多かったのは「ネットワークの障害」――。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査」では、有効回答640のうち4割もの企業が、こう回答した。2位の「ハードウエアの障害」に11ポイントの差をつけ、断トツの1位である。

 確かに先月だけでも、NTT東日本の「フレッツ・サービス」やNTT東西間のIP電話サービス「ひかり電話」で大規模な障害が発生。ともに企業活動に大きな影響を与えたことは記憶に新しい。全日空の大規模欠航も、ネットワーク機器の障害が同時に発生している。

 ただ一方で、「2003年に広域イーサネットに全面移行したときは問題が発生していたが、LANを含め、この1年は大きなトラブルはない」(INAX 情報システム部 システム基盤グループの柿崎稔課長)、「この2年間ネットワークを担当しているが、致命的な問題は起きていない」(富士フイルムコンピューターシステム システム事業部の湯川立哉ITインフラ部長)といった企業も多い。

 では、「大規模障害の原因はネットワーク」という企業と「最近はネットワークが安定している」という企業は何が違うのか。そこには大きく、3つのポイントがある。(1)高速・低価格なWANサービスとどう付き合うか、(2)新しい使い方に対し、どうやって障害に対応するか、(3)少ないネットワーク担当者をいかに育成し、組織としてバックアップするか――である。

障害多発のアクセス回線を見える化

 「一体何が起きているのか」。5月15日午後7時前、北海道銀行の小林裕幸システム企画部長は、ネットワーク管理システムの画面を眺めて、がく然とした。道内に120ある拠点で、IP-VPNと接続する「フレッツ・ADSL」が、次々とダウンしていたのだ。

 すでに営業時間を過ぎているため、業務に致命的な影響はなさそうだ。しかし、電子メールや掲示板、一部のIP電話といった情報系はすべてフレッツ・ADSL経由である。小林部長はすぐさまNTT東日本 札幌拠点の担当者に電話をしたが、情報が得られない。むしろ、北海道銀行における回線の生死情報を伝え、状況把握を手伝う状態だった。NTT東では障害情報を東京で集約し、その時点では地方にまで情報が行きわたっていなかったようだ。

 北海道銀行だけではない。フレッツ・ADSLと光ファイバの「Bフレッツ」を計70拠点に導入している仙台銀行や、東日本では500店舗を展開している衣料品小売りのしまむらなどでも一部の店舗で回線がダウン。幸い、営業時間外だったことと、段階的に復旧したことで大きな被害はなかった。一方で、営業時間帯だった業種では、少なからず影響があった。ファミリーマートは783店舗で店頭端末「Famiポート」が停止。障害エリアに300店舗を持つレインズインターナショナルの牛角では、食材の発注を手作業に切り替えた店舗があった。

2重化まで手が回らない“足回り”

図●通信サービスの大規模障害はアクセス回線やIP電話で増えている。左下は企業ネットワークの一般的な構成
 ここ数年、通信サービス障害の影響範囲が拡大している()。昨秋にNTT東西で起きたひかり電話障害の対象は、ともに約80万契約。5月15日のフレッツ障害は285万回線で、同23日のひかり電話では318万回線にも上った。図を見て気付くのは、大規模障害のほとんどは、ADSLやFTTHといったアクセス回線、または、各拠点にIP電話を提供するサービスであることだ。

 今の企業のWANは、サーバー拠点と各拠点を、広域イーサネットやIP-VPNといった新型WANサービスで接続する形態が多い(図左下)。障害が発生するのは、(1)サーバー拠点とWANサービスの接続回線、(2)WANサービス、(3)拠点とWANサービスを結ぶアクセス回線――のいずれか。さらにIP電話サービスは、別ネットワークとなる。このうち(1)を2重化するのは当たり前になっている。(2)は、INAXや三菱重工業など、2系統を用意する企業もあるが、「安定していて、この2年間ぐらいは大きな障害を起こしていない」(三菱重工業 情報システム部の高野現情報システムグループ長)と評価する声は多い。多くの通信事業者側も、「最近の稼働率は100%」(ソフトバンクテレコム)と胸を張る。

 問題は(3)だ。4~5年前まで、アクセス回線にはディジタルアクセス(DA)やディジタルリーチ(DR)などの専用線しか利用できなかった。それが最近、もともとはコンシューマ向けだったADSLやFTTHがメニューに追加され、それを選ぶ企業が増えている。高速かつ低価格だからだ。

 拠点のシステム利用が増えてアクセス回線を高速化しようと考え10Mビット/秒(bps)の専用線を使うとなると1回線当たり月額数万~十数万円もする。これがBフレッツなら5000~9000円。速度はベストエフォートの最大100Mbpsだが、10M~20Mbps程度は出ると言われる。少し速度を下げれば、ADSLなら最大1Mbpsで1000円台もある。コンシューマを想定しているため、郊外でも利用できるのも魅力。全国に拠点を持つ企業にとって、使いやすいサービスとなっている。

 ただ、ユーザー数が急激に増えるなか、構成的にも、通信事業者側の運用体制的にも“枯れて”おらず、問題が表面化しやすい。NTT東は5月15日の障害は「網の変更情報がエリア全域の4000台のルーターに伝わり、処理能力が低い2000台がダウンした」と説明する。「人為的なミスの可能性が高い」(NTTグループの技術部門OB)という声もあるが、ユーザー数急増が一因であることは間違いない。例えばNTT東のBフレッツの契約数は06年度末に339万と、前年度比8割増。ひかり電話に至っては4倍弱の170万契約だ。


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