利用部門から要求されるままに、過剰な機能を備えたシステムを作ってしまう――ほとんどのユーザー企業が、中高年の間で話題の「メタボリック症候群」の“IT版”に冒されている。システムの構築スピードを高め、ムダな投資を防ぐには、社内システムに潜む余分な“脂肪”をそぎ落とすしかない。先進ユーザーの事例や有識者の意見から、その方策を探る。

(戸川 尚樹=日経ソリューションビジネス編集、目次 康男)

脱“ITメタボリック”大作戦
主体性を持ちメリハリを付けよ
「8割主義」の発想で取り組む


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システムの膨張を食い止めろ

 「ビジネスに役立つはず、との信念で、システムの機能を増やしてきた。しかし、当社のビジネスにほとんど貢献せず、システムに“余分な脂肪”を付けてしまった」。こう語るのは、散髪時間10分、料金1000円の理髪店チェーン「QBハウス」を国内340カ所に展開するキュービーネットの岩井一隆社長である。この反省から、「システムを構築する際に、余計な機能をできる限りそぎ落とすよう、現場に徹底している」と、岩井社長は話す。

 JTBも同様に、「できるだけシステムを作らない」、「可能な限り既存システムを流用する」との方針で、情報化を進めている。「数年前は、対象となるビジネスの規模や将来性によらず、一律公平にシステム化を進めていた面があった。しかし、情報化投資が年々膨れ上がる状況を見て、『何か手を打たなければ』と感じていた」と、JTBグループの情報化を担うJTB情報システムの野々垣典男執行役員は説明する。

 キュービーネットとJTBに共通するのは、両社ともある時期に、システムの種類やシステム個々の機能が必要以上に増えて、システムの肥大化に陥ったことだ。これは両社に限らず、日本のユーザー企業の多くに共通して見られる現象である。それをこの特集では、「ITメタボリック症候群」と呼ぶことにしよう。

図1●あなたの会社のITメタボリ度をチェック!
 あなたの会社あるいは組織は、ITメタボリック症候群に陥っていないだろうか。図1で、ぜひチェックしてほしい。

「システム機能の2割は不要」

 なぜ、“ITメタボリック”の状況が発生しているのか。有識者は異口同音に、「IT部門の主体性のなさと生真面目さが原因」と指摘する。

 「利用部門からは通常、数多くの機能要件が出てくる。その際に『言われたとおりに開発したほうが早く仕事が進む』と考えて、システムに盛り込む機能を絞り込もうとしないIT部門が多すぎる。そこには主体性が感じられない」。多くのユーザー企業の情報化プロジェクトをコーチングしている、札幌スパークル システムコーディネータの桑原里恵氏は、こう話す。

 しかも、「日本のIT部門はとにかく真面目。利用部門が喜ぶシステムをきっちりと仕上げようとする」(アビーム コンサルティングの水谷穣プリンシパル)。それが「数多くのシステムを提供したり、過剰とも思える機能を装備したシステムを作ってしまう状況を生み出している」と、ユーザー企業の情報化に詳しい、野村総合研究所の淀川高喜プロセス・ITマネジメント研究室長は指摘する。

 ITがコモディティ化したことも、ITメタボリックを助長させている。「システム化が容易になったことで、何事もシステムで解決すればよいと安直に考える利用部門は増えている。それが、システムの肥大化・複雑化を生み出す大きな要因だ。このことを理解していない利用部門の要望に、IT部門が素直に応えてしまうと、IT投資が膨らむ一方で効果の出ないシステムが増え、ITメタボリック症候群への道を突き進むことになる」。ガートナージャパンの松原榮一バイス プレジデントはこう述べる。

 システムの種類が多かったり、各システムの機能が過剰に見えても、それらがビジネスに貢献していれば問題はない。ところが多くの企業では、余計なものまでがシステムと化している。IT部門が利用部門の“御用聞き”になり、経営戦略に関係なく、利用部門の細々とした要望に応えているからだ。札幌スパークルの桑原氏は、「システムで実現している機能要件の2割を削ったとしても、ビジネスには何の支障もないケースがほとんど」と見る。


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