顧客満足度は一体、誰のための指標なのか――。ITベンダー各社が取り組む顧客満足度向上策に対し、ユーザー企業が疑問を抱き始めている。テンプレート(ひな型)に基づく提案活動が広がる中、「本当に顧客のためなのか」との不満が生まれる。こうした不満は、IT関連サービスやハード/ソフト製品に対する満足度にも影を落とす。間接販売に依存する外資系ベンダーを中心に評価が厳しい。ユーザー企業は今、「価値ある仕組みを作るための手段」を模索している。顧客は「もっと対話したい」のだ。
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顧客満足度は一体、誰のための指標なのか――。そんな疑問がユーザー企業の間にじわじわと広がっている。ITベンダーの営業担当者や技術者の動きが、“内向き”になりはじめているためだ。
ITベンダー各社は、顧客満足度向上に向け数々の手を打っている。しかし、体系立った満足度向上策には、現場の動きを型にはめ、顧客の意向に逆らわない“素直な”人材を育成するという落とし穴がある。<
ユーザー企業は今、最適な業務プロセスや情報システムを設計しようと必死だ。その一方で、そのプロセスや利用技術が「本当に正しいのか」と不安を覚える。彼らが求めるのは「本当に価値ある仕組みを作るにはどんな手段があるか」を突き詰めるための相談相手である。顧客はもっと対話がしたいのだ。
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「ITベンダーの顧客満足度向上策は、ユーザーである我々が求める視点からは、ずれているように思えてならない」――。三菱製紙の竹下義弘システム部長は最近、ITベンダーの施策に違和感を覚えることが多い。
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図●大手ITベンダーが取り組む顧客満足度(CS)向上策の例 |
そこに、ユーザー企業の“驚き”はない。竹下部長の違和感もここにある。
「これらは本当にユーザー・ニーズを聞いて作り上げたサービスなのだろうか。『あの程度なら当社だってできる』といった自己満足で作っているだけではないか。ワン・ツー・ワンとは、こんな姿ではないはずだ」。
テンプレート化が満足度を損ねる
首都圏を中心に不動産管理事業を展開する大手企業のシステム部長も、首をかしげるケースが増えたと話す。
「あれもこれもと要求するユーザー企業にも非はある。しかし、顧客の顔色をうかがい、指示通りに実行することが“顧客満足”だと考えているITベンダーの担当者が目に付きだした。何か勘違いしているのではないか」。
同社は今年、5年を費やして基幹系システムを刷新したばかり。プロジェクト期間中、ITベンダーの担当者は、与えられた役割をスケジュール通りに淡々とこなしていった。機能追加の要望を出しても快諾し、基幹システムの完成度は高いと思われた。
ところが、出来上がったシステムはツギハギだらけ。利用部門からは「使いづらい」と不評を買っている。機能追加が他の機能に及ぼす影響など一切指摘されておらず、システム稼働後の修正にも限界があった。
「お客様の満足を実現するために、プロフェッショナルとしてのスキルを磨き、新たな挑戦を続けます」、「お客様とともに新しい価値の創造をお手伝いします」――。ITベンダーのパンフレットには耳当たりのいいフレーズが並ぶ。これらが看板倒れにならぬよう、ITベンダー各社は顧客満足度向上の施策を打っている。ユーザー企業の業務をより深く理解できるコンサルタントの増員、提案内容のメニュー化や開発成果物のテンプレート(ひな型)化による品質向上などだ。
富士通の坂下善隆常務理事・共通技術本部本部長は、「失敗プロジェクトを防ぎ、品質の底上げを図るためにはテンプレート化は不可欠」と話す。
同社のIT基盤製品群「TRIOLE」は、ハードやソフトの組み合わせを事前検証したもの。その上で、推奨するシステム構成を「TRIOLEテンプレート」として提供する。テンプレートの適用件数は、2004年度(3月期)の700システムから、05年度は1800システムに増えた。安定稼働するシステムを低いリスクで構築できることは、ユーザー企業にもメリットは大きい。
こうしたITベンダー各社の品質底上げ策を評価するユーザー企業は少なくない。しかし、必ずしも顧客満足度に結びついているわけではない。
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