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「基幹システムを再構築してこそ、次世代を担うIT人材を育成できる」。トヨタ自動車はこう考え、30年ぶりに生産管理システムを全面刷新した。ベテランの指導の下、中堅・若手が開発を担当、業務ノウハウとスキルを引き継いだ。インフラ整備とアプリケーション開発における奮闘ぶり、予算獲得とデータ分析で採った秘策、そしてトヨタが得た成果まで、「トヨタ流2007年問題対策」の全貌を明らかにする。

(戸川 尚樹)

バケーションに行っているのか?
2カ月以上の延期は許さない
「老朽更新」で予算を確保
データベースを徹底して叩く
世界戦略車の成功を下支え


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ7月24日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「誰かがやらなければ将来に禍根を残す。それなら自分たちが当事者の間にやろう。どうせなら、でかくて難しいプロジェクトに挑戦したほうが、やりがいがある。基幹システムのインフラ(基盤)とアプリケーションをすべて作り直そう」——。

 およそ考え得る、リスクが最も高いプロジェクトにあえて取り組んだユーザー企業がある。トヨタ自動車だ。

 同社の情報システム部門は、経営陣と利用部門から協力を取り付け、ものづくりの心臓部にあたる「部品表データベース」を30年ぶりに全面刷新。同時に、車の設計・試作・生産といった基幹業務を支えるアプリケーションを作り直した。それが2000年から2003年2月まで進められた「新SMS(スペシフィケーション・マネジメント・システム)」プロジェクトである。

 海外進出を加速しているトヨタは、全世界に通用する新しい業務プロセスと情報システムを確立する必要に迫られていた。国や部門固有の仕組みと決別すべく、300億円以上を投じて、全世界共通の「新SMS」を構築した。

 「難易度の高いシステム構築プロジェクトは、次世代を担うIT人材の育成に格好の場」。トヨタはこういう発想をする。ベテランの指導の下、中堅・若手の情報システム担当者に部品表データベースや業務アプリケーション、それらを支えるインフラを作らせようというのだ。自分の手を動かすことで、システム部員は業務知識とITスキルを体得できる。新SMSプロジェクトは、トヨタ流の「ITの西暦2007年問題対策」だった。

 予算獲得から始まって、新システムの要件定義、最新技術の性能問題、新旧データ移行まで、新SMSプロジェクトの全局面でトヨタは悪戦苦闘している。ピーク時に1000人のエンジニアを動員したため、プロジェクトマネジメントの点でも困難を極めた。

 しかし、トヨタには戦闘的とすら言える挑戦意欲と計画必達への執着心があった。これは、トヨタ以外の企業であっても、持てるものである。2007年問題、すなわち基幹システムのブラックボックス化は、企業規模の大小を問わず存在する。この問題を「ぶっとばせる」かどうかは、ひとえにその企業の取り組み姿勢にかかっている。

 本誌は独自取材を通じ、新SMSプロジェクトの全貌を探った。インフラ整備とアプリケーション開発における奮闘ぶり、予算獲得とデータモデリングでトヨタが採った秘策、そして新SMSでトヨタが得た成果まで、一気に披露しよう。


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