いまIT業界の“品格”が大きく問われている。象徴と言えるのが、システム現場における責任感や倫理観、つまりモラルにまつわる問題だ。本誌が実施した緊急調査では「モラル崩壊の危機」を訴える意見が多数寄せられた。IT業界全体が品格を取り戻すために、ベンダー、ユーザー企業とも問題を正しく認識し、改善に取り組むべきときに来ている。

(玉置 亮太、田中 淳)

今そこにある「モラル崩壊の危機」
過度の要求が現場を追い込む
「見える化」で構造問題に挑む
「魅力ある産業」へ脱皮する


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ7月10日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

図●流通業A社のWebポータル・システム刷新プロジェクトの体制。開発を請け負ったD社は、C社製品を扱った経験のないエンジニアをアサインした
 7000社超の企業で約57万人が働き、各社の年間売上高が計14兆5000億円に達するIT業界。いま、この業界の“品格”が大きく問われている。

 その象徴と言えるのが、システム開発現場における責任感や倫理観、つまりモラルにまつわる問題だ。本誌がITプロフェッショナル800人に実施した調査では、「設計やコーディングが不十分だと知りつつ、システムを納品した」行動を身近で経験した回答者が、全体の半数に達した。スケジュール遅れを偽り「順調」と報告する、自分たちの都合でユーザー企業の要求を拒否する、テスト結果をごまかす、なども3割を超えた。

 この1年あまりで不正取引をはじめとする事件が相次いでいることも、IT業界の品格が危機にある事実を指し示していると言えよう。例えば日本システムウエアでは4月に、元社員による4億2800万円の不正取引が発覚した。

 もちろんITプロフェッショナルの多くは、顧客の要望に応えようと、日々システム開発や運用の現場を支え、営業に奔走している。問題は、個々の努力では最早どうにもならないほど、現場に対するプレッシャーが強まっている状況にあることだ。

 その要因は複雑で根深い。例えば、オフショア開発の台頭。これがシステム開発料金の“相場”の引き下げにつながっているため、IT投資が増加傾向にあるにもかかわらず、その恩恵を受けられずにいるITベンダーが少なくない。オフショア開発の影響をもろに受けるのは、ベンダーあるいは業界全体として、「多重下請け」や「人月単価」など長年の慣習を温存し、かつ人材の育成を怠ってきたツケも大きい。

 しかも個人情報保護法や日本版SOX法(企業改革法)への対応といった手間の増加、成果主義の導入など、現場に対する締め付けは厳しさを増す一方だ。日々新たなスキルを身に付ける必要にも迫られている。それでいて現場では慢性的な人手不足が続く。ベンダー各社が売り上げを確保するために、これまで以上に案件の獲得を積極化しているのに加え、市場全体でIT人材が不足する傾向にあり、人を増やしたくても増やせない状況にあるからだ。

 こうした厳しい状況のなか、調査には「モラル崩壊の危機」を訴える意見が多数寄せられた。30代の運用・保守エンジニアは、「ある時期には、モラルが下がってしまう出来事が多かった。過酷な作業状況の中で、本来必須の作業すらこなせない。それが原因で問題が発生し、非難されたとき、もはや自分が悪いとは思わなくなっていた」と回答した。

 問題の解決は容易でない。ベンダーに依存する傾向が強まっているユーザー企業側にも、改善すべき点は多々ある。だがここにきて、経済産業省が13年ぶりにIT業界の構造改革案を打ち出すなど、打開に向けた動きが出てきた。IT業界全体が品格を取り戻すために、何をすべきか。そもそも、いま現場で何が起こっているのか。IT業界が総力を挙げて問題を正しく認識し、改善に向けた一歩を踏み出すべきときに来ている。


続きは日経コンピュータ2006年7月10日号をお読み下さい。この号のご購入はバックナンバーをご利用ください。