仮想化技術をプロセサに組み込んで、管理の効率を高めたクライアントが登場する。米インテルが「vPro」のブランドで展開するデスクトップ・パソコンだ。9月には各ベンダー向けにプロセサなどの出荷が始まる。二つのOSを動かす仮想化技術を使いこなせば、管理のしやすさは、シンクライアントに近づく。

(福田 崇男)


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 「パッチを当てたらパソコンが立ち上がらなくなった」、「ウイルスに感染してOSの一部が書き換えられてしまった」、「ユーザーがウイルス対策ソフトを終了してしまい、ウイルスの感染が広がった」――。このような経験を持つ企業は少なくないだろう。

 情報システム担当者としてはこうした事態に備えて、あらかじめバックアップをとり、ウイルス対策ソフトをすべてのクライアントに導入し、さらにパターン・ファイルを最新の状態に保たねばならない。しかし、常にそれを実践するのは難しい。数百台、数千台のクライアントを使う大企業に至っては、そのすべてを完全に管理し続けるのは、不可能に近い。

クライアントに管理用OSが同居

 このような状況を、デュアルコア・プロセサの片方でクライアント管理専用のOSを稼働させることで打開する構想が、現実のものになってきた。インテルが4月25日に発表した「vPro」である。パソコンの電源が入っていなくても、ユーザーが使っているOSが壊れて起動しなくても、ネットワーク経由でクライアントを起動。管理用OSを使って状態を把握し、修復する。

 実は、「vPro」それ自体は特定の技術を意味するものではない。インテルが開発した複数の技術を搭載するデスクトップ・パソコンに与えられる、ブランド名にすぎない。ノート・パソコンの「Centrino」、エンターテインメント用パソコンで展開している「Viiv」と同じような位置づけである。

 vProブランドの製品が備える技術とは、一つのプロセサ上でユーザーが操作するOSに加えてシステム管理者用OSを動作させる仕組み「Embedded IT」、クライアントをネットワーク経由で制御する技術「AMT(アクティブ・マネジメント・テクノロジー)2.0」、デュアル・コア技術を組み込んだプロセサ「Core 2 Duo」の三つ。ハードウエアとしては、インテルのCore 2 Duo と、「Intel Q965 Expressチップセット」、「Intel PRO/1000シリーズ」のNIC(ネットワーク・インタフェース・カード)を搭載したパソコンがvProブランドを冠する。

 米インテルの上席副社長兼セールス&マーケティング統括本部長であるエリック・キムCMO(最高マーケティング責任者)は、「パソコン・メーカーにチップセットなどを出荷するのは、8月か9月になる見込み」と明かす。ユーザー企業が「vPro」のロゴが付いたパソコンを導入できるのは、早くても10月ごろになりそうだ。

“仮想アプライアンス”を実現

 では、そのvProの中核を担う仮想化技術、Embedded ITの構造はどのようになっているのか。

 Embedded ITは、VMM(バーチャル・マシン・モニター)と呼ばれるソフトウエアの上で、二つのOSを動作させる。一つは、ユーザーが操作する「ユーザーOS」。もう一つは、ユーザーOSとは別に動作する管理者用OS「サービスOS」だ(図1)。

図1●仮想化技術を使って「ユーザーOS」と「サービスOS」を稼働させる

 サービスOSは、ウイルス対策ソフトやクライアント管理ソフトといった、“システム管理者役”を担うプログラムの常駐に特化したものだ。その実体は、インテルが米マイクロソフトと共同で開発した、Windows OSのサブセット。Embedded IT対応ソフトを開発するベンダーは、インテルと秘密保持契約を結んだ上で、サービスOSの提供を受け、自社のソフト製品にバンドルして販売する。

 サービスOSは、ユーザーOSとは異なる専用のメモリー領域、専用のハードディスク領域を確保して稼働する。操作画面はなく、キーボードによる入力も受け付けない。あくまでもシステム管理者がネットワーク経由で操作するOSで、ユーザーOSからは全く認識できない仕組みになっている。ユーザーOSに不具合があっても、サービスOSは影響を受けない。

 このサービスOSとその上で動作するアプリケーションは、「仮想アプライアンス」とも呼ばれる。それは、サービスOSとアプリケーションが、ウイルス対策、あるいはクライアント管理といった管理に特化した機能しか提供しないためだ。


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