昨年のメディア・リンクス事件を契機に、システム構築に伴うIT取引の見直しが迫られている。あいまいなIT業界の取引慣行が不正会計の温床になっているとの指摘が強まったためだ。内部統制の機運が高まるなか、一方の当事者であるユーザー企業も変わらなければならない。そこでは、システム構築全体をマネジメントできる“強いIT部門”が求められている。

(矢口 竜太郎)


【無料】サンプル版を差し上げます本記事は日経コンピュータ2005年10月17日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。本「特集2」の全文をお読みいただける【無料】サンプル版を差し上げます。お申込みはこちらでお受けしています。なお本号のご購入はバックナンバーをご利用ください。

 「稼働時期が迫っているので正式な契約を結ぶ前に開発着手を依頼する」、「予算の都合から検収時期を遅らせる」、「システムの設置作業費などもリース契約に含める」――。これまで当たり前のこととして運用してきたIT取引に対し、財務・会計上は「問題あり」との公式判断が下された。

 判断を下したのは、経済産業省が5月に立ち上げた「情報サービスの財務・会計を巡る研究会」。この8月11日に「情報サービスにおける財務・会計上の諸問題と対応のあり方について」と題する報告書を発表し、これからのIT取引のあり方を明記したガイドラインを示した。

 ガイドラインによれば、企業会計や決算書がますます重視される今後、これまで通りの取引は、財務・会計上は不適切な取引だとみなされ、“財務諸表が不健全な企業”とのらく印を押される可能性がある。

 では一体、これまで当然だった取引の何が問題なのだろうか。

あいまい取引:
契約前に開発着手を依頼する

図1●あいまいなまま放置されてきたIT取引に会計のメスが入った。IT取引向け会計基準の整備と平行し、ユーザー企業にも契約形態の見直しを求める
 システム開発プロジェクトを任されたが、仕様の詳細がなかなか確定しない一方で、現場はカットオーバーの時期だけは決して譲ろうとしない。そこで、あなたはまず、これまでに付き合いのあるITベンダーの営業担当者に相談を持ちかけた。部内の正式な承認はまだだが、これまでの経験で言えば、今回の発注先は、そのITベンダーになるはずだった。カットオーバーに間に合うよう、とりあえず基盤部分の開発に着手してくれるよう依頼した――。

 契約前に開発を依頼することは「問題あり」である。その後に正式に契約を結べば問題は表面化しない。だが、仮発注が正式契約に至らないと、ITベンダーが契約を期待して進めた開発作業は徒労に終わることになる。仮発注が契約に至らなくても、これまでなら、「次に埋め合わせをするから」ですまされることも多かった。

 しかし今後は、ITベンダー自身が会計基準を順守し会計監査が強化されれば、安易な開発着手は制限される。場合によっては事前着手分の対価の支払いをユーザー企業に要求する可能性もある。

 ユーザー企業自身の内部統制上も問題である。取引を事実上開始しているにもかかわらず、その証拠となる契約書を作成していないからだ。対価の支払いが訴訟にでもなれば、発注者である「あなた」の言動が企業の信用を失わせることになる。「次に埋め合わせをするから」といった約束も、特定企業に優位に働いたとの疑いにつながる。


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