本連載は、ITを活用しながら改革を成し遂げるリーダーの、具体的な論理思考スキルと組織を巻き込むための方法論をストーリー仕立てで紹介しています。

 舞台は印刷業界のトップ5の一角、東京プリンテック。パッケージ事業部の事業部長から事業の立て直しを託された改革担当部長の道野は、営業部の田川、企画部の荒川、業務システム部の池田らとプロジェクトに取り組んでいます。

 前回まで道野たち改革チームは、顧客の潜在的な不満足を解消するための議論を重ねてきました。その過程で、「社内のジレンマを克服し、『バラバラに動かず』組織的に対応する方法を具体化すれば、『自社業務効率の向上』と『顧客の商品開発スピードの向上』を同時に高められる」という結論に達しました。

 こうした仕事は、コンシェルジュ(お世話係)とナビゲーター(水先案内)を組み合わせた役割であることから、「ナビシェルジュ」と名付け、取り組むことにしました。今回はこの解決策を具体化していく方法を見ていきましょう。

 「コンシェルジュ(お世話係)とナビゲーター(案内人)でナビシェルジュか。確かにネーミングは悪くないな。でも、自社の問題行動を解決すれば、顧客の商品開発の速度が上がって顧客満足が向上するといっても、漠然としすぎていて営業としては顧客に説明しづらいですね」

 田川はどうも釈然としないといった表情をしている。

 「では、もう一度整理してみましょう。まず実現できるメリットを具体的に書いてみます」

 そう言うと池田はホワイトボードの前に立ち、こう記した。

 『リードタイムの優位性を活かして顧客対応力を劇的に高める』

 池田の殴り書きを眺めながらも、田川はなお食い下がる。

 「『顧客対応力を高める』って何ですかね。きわめて当たり前で、あまり魅力を感じません」

 田川にうなずきつつ、リーダーの道野はこう説明した。

 「解決策に説得力が感じられないのは、大きく3つの理由がある。第1に解決策の持つメリットを正しく評価できず、訴求しない。要するに、せっかくのアイデアを過小評価してしまうということだ。第2には、それを実行した時に発生する大きな副作用が見えるから腰が引ける。そして第3には解決策の実行上の障害を乗り越えられないと感じてしまうことだ。だから、それぞれに対策を考えないと『我々の新しい画期的なアイデア』は永遠にお蔵入りすることになる」

道野は続ける。

 「まず第1の理由に手を打とう。解決策の持つ利便性を正しく評価する時に大切なのは、我々の顧客が企業だということ。これを忘れてはいけない。企業は様々な物品を、ビジネスに必要だから購入する。不要でも購入することもある一般消費者とは違うところだね。ただ、ビジネスニーズは部署や担当によって違う。これを正しく捉え、満たすことが重要だ。


例えば大手企業では、窓口は本社の資材購買、引き合いは商品開発部、納品指示は工場の生産管理部の資材担当みたいなパターンが一般的で、それぞれに違った役割がある」

 荒川が手を挙げた。

 「顧客の資材購買部は安く買うこと、商品開発部は売れる商品を作ることですし、工場の資材担当は欠品なく資材をそろえ、過剰在庫を防ぐことが役割ですね」


と答えた。すかさず道野が言う。