スマートフォンなどのモバイル端末、クラウドシステムの普及などIT環境の進化はめざましく、企業の経営活動に不可欠になっています。ITの活用如何で経営戦略や経営活動の成否を大きく左右することから、経営とITが一体化した“IT経営”の実践が当たり前になってきました。今や経営力を高めるためにITを戦略的に使いこなすことが求められています。

 こうしたニーズに応えるため、ITコーディネータ協会はIT経営を推進するガイドラインとして、「ITコーディネータ プロセスガイドラインVer.2.0(以下、PGL2.0)」を公表しています。経営者の立場で、経営とITを橋渡しし、真に経営に役立つIT投資を推進・支援するための手法がまとめられています。

 しかしながら、PGL2.0のガイドラインに基づいて、いざIT経営を実践しようとすると、さまざまな課題が発生します。そこで、本連載では、IT経営を実現するプロジェクトを成功させるカギとなるポイントを、10回にわたるQ&A(Question&Answer)形式の連載(1回当たり2問)で解説します。

「IT経営プロセス」をQ&A形式で解説

 連載の概要を説明する前に、本連載の基盤となるPGL2.0で提唱しているIT経営プロセスの概要を紹介。その後、連載テーマについて説明させていただきます。

 まずIT経営とは、経営戦略に沿った業務プロセス改革とその改革に最適なITサービスを活用する経営であり、「IT経営プロセス」はこのIT経営を実践するためのプロセスです。具体的には「IT経営認識プロセス」「IT経営実現プロセス」「IT経営共通プロセス」で構成されます()。

図1●「IT経営プロセス」の全体像
図1●「IT経営プロセス」の全体像
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 ビジネス活動の中で行われるIT経営への認識が「IT経営認識プロセス」であり、「IT経営の認識」のもとで進める「経営改革活動」を、IT化活動を含めたIT経営実現のプロセス全体を捉え「IT経営実現プロセス」としました。さらに、「IT経営共通プロセス」では「IT経営認識プロセス」と「IT経営実現プロセス」を進める上で共通に必要となるマネジメントをプロセスにまとめています。

 以下、順に説明しましょう。

●IT経営認識プロセス

 IT経営認識プロセスは、ビジネス活動の中で経営環境の変化への気づきと自社の成熟度向上に対する認識による構想をIT経営実現プロセスへ反映し、IT経営の成熟度向上を図るプロセスです。「変革認識フェーズ」「是正認識フェーズ」「持続的成長認識フェーズ」からなります。

 「変革認識フェーズ」は、経営者と従業員が共に経営環境の変化に気づき、変革の方向性を経営者が判断することでIT経営による経営改革の構想(「変革構想書」)を作るフェーズです。

 「是正認識フェーズ」はIT経営実現プロセスの経営戦略実行フローである「経営戦略(計画・準備・実行)」とIT化を進める「IT化実行プロジェクト」に対するモニタリング&コントロールを実施するフェーズです。計画自体に影響を与える新たな環境変化や新たに発生する重大な自社課題の本質を見極め、経営改革の構想の見直しを行います。

 「持続的成長認識フェーズ」は、IT経営実現プロセスの「経営戦略(計画・準備・実行)」とその中の移管として実施される「IT化実行プロジェクト」が完了した後の「経営戦略(評価)」を受けて、新たな重要課題や今後の経営環境の変化を予測し、持続的成長に向けて必要な次の手を打つ認識のフェーズです。この認識は、「変革認識フェーズ」につなげ、さらなるIT経営の向上へ結びつける事前検討のフェーズです。