IT戦略が必要なことは分かっているが、どう作ったらよいか分からない。その状態でITシステムを構築すると、経営戦略とITシステムの整合性が取れず、あまり利用されないITシステムになって、“金食い虫”などといわれるようになります。IT戦略は、経営戦略と経営戦略を実現するITシステムを結びつける「要(かなめ)」です。「IT戦略の策定」フェーズでは経営戦略と整合性を持つようにIT戦略を定義する手順の実践が必要になります。

 本連載では、架空の中堅ITベンダーIST社をモデルに、プロジェクトメンバー(事業部長の山田氏、営業課長の中川氏、SE課長の上野氏)と、ITコーディネータ(私)との対話を通して、大阪事業部を「儲かる事業」にする“IT経営”企画を進めています。プロジェクトを推進するうえで前提となっているのは、ITコーディネータ試験の出題範囲に含まれる「ITコーディネータ プロセスガイドライン2.0」です。

 前回は、「IT戦略策定の事前準備」について考察を行いました。今回は続いて「IT戦略を策定する」フェーズに入ります。IT戦略策定手順に基づいた成果物の作成が今日のテーマです。

IT戦略は2ステップで捉える

 IT戦略策定フェーズは、事業戦略企画書(第6回で紹介した「経営戦略企画書」の別名)で提示されたIT化対象業務プロセスの戦略目標を受けて実施します。IT戦略策定フェーズには、「業務プロセス改革のIT戦略策定」と「経営判断情報とIT環境のIT戦略策定」があります。それぞれの内容は以下の通りです。

◆第1ステップ:業務プロセス改革のIT戦略策定
 業務プロセスの見える化の後、あるべき業務プロセスの戦略目標/事業施策に対する現行業務プロセスのギャップ(GAP)を分析するとともに「IT化対象業務プロセスのIT化改革目標」を明確にし、その後、IT戦略を策定します。

◆第2ステップ:経営判断情報とIT環境のIT戦略策定
 経営トップへ要望をヒアリングするなどによって「経営判断情報のIT化目標」と「IT環境の改革目標」を作り、IT戦略目標とします。

業務プロセス改革のIT戦略策定

<現行業務プロセスを見える化する>

 前回でIT戦略策定の事前準備が終わったので、今回はIT戦略策定の実作業に入ります。IST社に伺うと、ITインフラ事業のクラウドビジネスを例に、現行業務プロセスの見える化を進めているようです。

事業部長の山田氏:前回説明がありましたがIT戦略目標は、「新業務プロセスとのギャップ分析」を基に設定するということでした。ギャップ分析とは、あるべき業務プロセスと現行業務プロセスの相違点を明らかにすることです。あるべき業務プロセスについてはこれまで議論してきました。そうすると今回は、「現行業務プロセスの見える化」が最初のステップとして必要になりますね。ITインフラ事業のクラウドビジネスを例に現行業務プロセスの見える化をしてみましょうか。

SE課長の上野氏:業務プロセスの見える化を行う手法としては「EA」(注)で提示されている「階層化」が一般的です。階層化は、業務プロセスの粒度(業務機能のくくりの単位)に焦点を当てて、業務プロセスを整理する手法です。

(注)EAは「エンタープライズアーキテクチャー」の略で、ここでは電子政府の推進に向けて作成された「業務・システム最適化計画策定指針(ガイドライン)」で示された設計手法を指す。

営業課長の中川氏:よく分からないので、階層化を使って、具体的に業務プロセスの見える化をしてくれませんか。