「断れない提案」をつくる3つの視点

 法人間のBtoB取引では、「顧客が、なぜ買うのか」を考える必要はほとんどありません。企業や法人が何かを買う場合、必ず理由があり、衝動買いはしません。製品に使われるさまざまな原材料や機械設備から、えんぴつ、消しゴムに至るまで企業は営利を目的として購入します。

 従って顧客への提案は顧客が儲けを作れるような提案をすれば良く、そのための優先順位は次の通りなのです。

 1.入ってくるお金を増やすこと(売上、スループット)

 顧客製品の機能や利便性を向上させたり、開発スピードや生産効率などの生産性を向上させたりする事ができれば、顧客の売上高や粗利の速度は著しく向上します。またナビシェルジェの試作提案のように顧客のビジネスの速度を向上させるような提案もパワフルです。この領域で圧倒的な優位性を作り出せばプレミアム価格を頂くことも夢ではありません。実際長野県のキョウデンというプリント基板メーカーは、小ロット、超短納期がセールスポイントで、1.5日でプリント基板を納めるサービスでは通常価格の7倍程度の特急料金がチャージされるのです。

 2.出ていくお金を減らすこと(在庫・投資)

 ナビシェルジェのもう1 つの提案がこれで顧客の在庫を減らし、キャッシュフローを向上させる事が可能です。また顧客の実需に合わせて小ロット・多頻度納入を行えば、生産管理業務はより簡単になり、業務費用も削減できるというメリットがある提案です。この種類の提案では、価格プレミアムを受け入れてもらえる可能性はわずかなので、顧客と安定的・継続的に取引を行うことによって「逃げられない関係」を構築することが重要です。

 3.ムダなお金を減らすこと(業務費用)

 顧客の業務費用(OE)を削減する提案になります。ベンダー在庫管理(VMI)は、顧客の在庫を減らすだけではなく、在庫を自動的に補充することによって、内示、納期調整、発注という事務作業を省くメリットもあります。

最強の提案とは何か

 「最強のオファー(提案)」とは、売りものを変えてしまうことです。

 この連載では、製造業をモデルにして売れないのも儲からないのも、ほとんど自社に問題があること。その問題を解決すれば、顧客にも良い変化が波及すること。自社の良い変化を具体的に「提案」という目に見える商品として提供し、市場や顧客とウィンウィンの関係を創って行く方法を見て来ました。

 理論的には筆者が通常コンサルティングに使っているTOC(制約条件の理論)の基本的な考え方に忠実に構成してあり、製造業に限らず非常に「普遍的」もので全ての企業や組織にはまります。是非参考にして様々な問題解決に役立てて頂ければ幸いです。これまでの連載にお付き合い頂きありがとうございました。

村上 悟(むらかみ さとる)

 ゴール・システム・コンサルティング代表取締役。ビジネス小説『ザ・ゴール』で有名なイスラエルの物理学者、故・エリヤフ・ゴールドラット博士が開発したマネジメント改革手法TOC(制約条件の理論)のコンサルティングを手がける。TOCの導入を支援した企業は40社以上。著書は『TOC入門』『在庫が減る!利益が上がる!会社が変わる!』『儲かる会社のモノづくりマーケティング売るしくみ』など多数。法政大学理工学部非常勤講師、日本TOC推進協議会理事長も務める。