本連載は、ITを活用しながら改革を成し遂げるリーダーの、具体的な論理思考スキルと組織を巻き込むための方法論をストーリー仕立てで紹介しています。
舞台は印刷業界のトップ5の一角、東京プリンテック。パッケージ事業部の事業部長から事業の立て直しを託された改革担当部長の道野は、営業部の田川、企画部の荒川、業務システム部の池田らとプロジェクトに取り組んでいます。
前回まで道野たち改革チームは、顧客の潜在的な不満足を解消するための議論を重ねてきました。その過程で、コンシェルジュ(お世話係)とナビゲーター(水先案内)を組み合わせた役割であることから、「ナビシェルジュ」と名付け、取り組むことにしました。
今回は個々の顧客に合わせて、どう提案していくかの具体的なステップを見ていきましょう。
「だいぶ具体的になってきたから、次は個別の顧客に合わせて作戦を考えよう。田川君、この『ナビシェルジュ』提案を君は誰に持ちかけるだろうか。君の主要顧客である城東フーズさんを例に説明してほしい」
道野が田川に質問する。
「あそこは本社の購買課が窓口ですから、まずは課長の田中さんあたりに話してみようかと思います」
「どう説明する?」
「確認したように小ロット品を大ロットと同じ価格、しかも短納期で買えますと説明しますが」
「その提案じゃダメだろう」
道野が田川の答えを即座に断じた。
「なぜでしょう。田中さんとは人間関係もできているし、話は聞いてくれると思いますが」
怪訝そうな田川の問いには答えず、道野は逆に問いかけた。
「では聞こう。今まで小ロット品に特別高い値段をいただけたのか。さらに小ロットでの発注がそんなに多かったのか」
そう言って、道野はニヤリと笑った。
「あ、確かに小ロットの発注は新製品の立ち上げのための試作がほとんどでした。それ以外は取り決めた最低ロットで発注されています。
小ロット受注はほとんどありませんね」
田川は確かにその通りだという表情を浮かべた。
「そう、田中さんは在庫で困っているわけじゃない。在庫はあくまで工場の責任であって、本社の資材担当は『いかに安く買うか』がミッションだ」