本連載は、ITを活用しながら改革を成し遂げるリーダーの、具体的な論理思考スキルと組織を巻き込むための方法論をストーリー仕立てで紹介しています。

 舞台は印刷業界のトップ5の一角、東京プリンテック。パッケージ事業部の事業部長から事業の立て直しを託された改革担当部長の道野は、営業部の田川、企画部の荒川、業務システム部の池田らとプロジェクトに取り組んでいます。

 道野は「対立解消図」というツールを使い、田川や荒川が「思考のボトルネック」、つまり思い込みにとらわれた状態にはまっているために、様々な問題が発生していることを示しました。続いて道野は、変えるべきポイントを明らかにしていきます。

【対立解消図】
       ←仕事の効率を高める←顧客に言われたことに対処する
良い仕事をする               ↑↓
       ←顧客の満足を高める←潜在的な問題に対処する

 道野が書いた対立解消図をにらむように見ながら、田川が発言した。

「このジレンマに囚われて、余計なことをすると損だと思い込んでいたのか」

業務システム部の池田が後を継いで語った。

「営業データ全体を分析すると、売り上げ減少のほとんどの原因は顧客が当社への発注をキャンセルし、他社に乗り換えていることでした。つまり我々が取るべき行動を取っていない間に、顧客が逃げ出しているのです」

納得できないロジックの裏に、変革への手がかりがある

 池田の言葉に、沈滞した空気が流れる。それを断ち切るように、リーダーの道野は張りのある声で語った。

「こちらから提案ができていないために、顧客に迷惑をかけている。この現状を打開するには、何かを変えていかなければならない。そこでまず問題の原因を考えていこう。田川君に聞く。対立解消図の矢印のうち、一番気に入らない矢印はどれだ?」

「気に入らない矢印とは?」

「『○○のためには××しないといけない』と、対立解消図を読んでみたよな。それらのロジックうち、一番しっくりこなかったのはどこかということだ」

「そうですね…。『仕事の効率を高める』ためには『顧客に言われたことに対処しなければならない』は気に入らないです。余りに後ろ向きですから」

「気に入らないのに、そうせざるを得なくなっている。なぜだろうか」

「余計なことを言うと余計な仕事が増え、効率が落ちると思っているからです」

自分の感覚を確かめるような表情を見せながら、田川が答えた。

「企画部門も一緒です。顧客から何か指摘を受けてパニックになっても、営業部門の人たちが手伝ってくれるわけではない。自分が大変になるだけだと思っています」

荒川の一言に田川が顔をしかめた。その様子を興味深そうに見ながら、道野は言った。

「そうだな。本来は営業も企画も仲間を助けることにやぶさかではないはず。でも、それぞれがバラバラに動いているからお互いを助けられない。やはり部門を越えて助け合う横断型の組織が必要だ」

 道野はさらに続ける。

「次に、本来こうあるべきと思えるロジックの方を考えてみよう。『顧客の満足を高める』ためには『潜在的な問題に対処する』だ。なぜそう思うのだろう?」

「顧客は印刷のプロではありません。よくあるミスやトラブルは私たちの方が知っています。だから私たちが先手を打って問題になりそうな点にあらかじめ対処しておけば、顧客に利便性を提供できます」

持論なのだろう、荒川は真剣な眼差しで語った。田川もうなずく。

「確かに問題が起こった時には『やはり』と思うことが多いものです。だから問題に先手を打つことを切り口に、何か現状の問題を解決する策ができないものかと思うのです」