本連載は、改革を成し遂げるリーダーの具体的な論理思考スキルと組織を巻き込むための方法論をストーリー仕立てで紹介していきます。

 物語の舞台は、東京プリンテックという架空企業のパッケージ事業部門。業界大手ながら、市場変化への対応が遅れた同部門は業績低迷にあえいでいます。そこに工場のサプライチェーン改革を成し遂げた主人公が乗り込みます。主人公は周囲を巻き込みながら「顧客が断れないほど魅力的な提案」を作り上げ、業績を劇的に回復させていきます。このストーリーは、筆者が実際にある企業をコンサルティングした経験をベースにしたものです。

 東京プリンテックは印刷業界でトップ5の一角を占める大手。同社のパッケージ事業部は、様々な食品の包材を生産している。主力の顧客は食品メーカー各社だ。

 少子高齢化や人口減少、デフレといった市場環境の変化によって、食品業界でも競争が激しさを増している。各社は厳しい競争を勝ち抜くため、商品の顔ともいえるパッケージに工夫を凝らす。実際、消費者の嗜好をとらえたパッケージかどうかで、商品の売り上げは大きく左右される。他方で、近年は新素材の開発が進み、包装形態やパッケージ形状の多彩さに拍車がかかっている。このような状況から、食品メーカー各社はパッケージの供給元に様々な要求を突きつけてくる。

 ところが、東京プリンテックのパッケージ事業部はこうした環境変化に追随できずにいた。売り上げが伸びず、じりじりとシェアを落とすジリ貧の状態である。これが今後も続くようなら、事業撤退も視野に入れなければならなくなる。

 危機感を抱いたパッケージ事業部長は、ある人物を呼び出した。この物語の主人公にして、事業改革担当部長の道野隆之だ。道野は1年前、パッケージ事業部の主力である食品パッケージ部門の工場改革責任者に就任。サプライチェーン改革に取り組んで6カ月で製造リードタイムの半減を実現し、損益分岐点を一気に5ポイント近く引き下げることに成功していた。

 もっとも、製造部門が成果を上げるだけでは経営面での効果は限られると道野は理解していた。営業や企画部門を巻き込み、事業部全体を改革して初めて業績に結びつく。こうして事業部長の要請を受けたのは、道野にとっては当初からの計画通りとも言えた。

 早速、道野は事業改革プロジェクトチームを立ち上げ、生きのいい中堅どころの人材に白羽の矢を立てた。営業部の田川雄太、企画制作部でパッケージデザインを担当する荒川ひとみ、業務システム部の池田智だ。池田は工場のサプライチェーン改革でも活躍した人物で、引き続き加わってもらった。

 改革を成功させるには、どれだけシンプルで分かりやすいストーリーを描けるかが勝負。道野は「何を変えるか」「何に変えるか」「どうやって変えるか」というシンプルな3つの問いに答えられるストーリーを描いた。以下のような要素を含むものになった。

(1)自社の強みを磨き上げ、その強みを顧客の利益に変える
(2)そうなれば、自社と顧客にウィン-ウィンの関係が成り立つ
(3)その結果、双方の利益(効率)が著しく向上する

 その後、改革プロジェクトメンバーとの初顔合わせの日を迎えた。道野はまず自分の問題意識を話したうえで、メンバーに問いかけた。

 「事業部長から求められているのは収益の改善だが、それは結果だ。問題はスピードではないだろうか。顧客へのレスポンスタイム、モノの流れ、情報の流れ、とにかく全てが遅いと私は感じている。では皆さんの考える現状の問題を、ざっくばらんに話してほしい」