「情報を伝達しているのに、相手から期待した行動を引き出せない」――。顧客、あるいは上司や同僚、部下に対してそんな思いにとらわれたことはありませんか。あなたが重要と感じている情報を相手に伝え、共有することは大切ですが、それだけでは十分ではありません。あなたと相手が、これから取り組むべきことに対して認識がそろっていなければ、あなたが情報を伝えても望み通りの行動を取ってくれるとは限らないのです。

 そこで大事なのが、自分と相手がともに満足できる状態になるポイントを見つけることです。これを本稿では「共通認識を作ること」と呼びます。共通認識作りを意識したコミュニケーションを取ると、あなたの仕事もはかどるはずです。

 本連載はこうしたコミュニケーションの問題を解決する手法を、架空の飲食チェーン「縁(えにし)」グループを舞台に探っています。前回は、SNSの運営を担当する販促担当マネジャーの向井みなみが「縁グループのサービスの魅力をファンに伝えるプロジェクト」のキックオフ・ミーティングを開催。店長たちから情報を提供してもらう約束を取り付けることに成功したところまでお話ししました。しかし、また壁にぶつかってしまっているようです。

課題:店舗の旬な情報を発信しているのに、SNS利用者から反応がない

 キックオフ・ミーティングの開催後、向井の元には各店長から情報が寄せられるようになりました。早速、向井はファンページへの利用者に向けて、旬なメニューの話題や新メニュー開発の裏話、各店の近隣で開かれる祭などの情報を投稿しています。1人で情報を発信していた時期よりも内容が充実したと向井は感じていましたが…。

 「またコメントが付かないな…」 店長の協力を得てから1カ月近く経過したある日、向井はSNSの管理画面を眺めて深いため息をつきました。以前より充実した内容を投稿しているはずなのに、相変わらず利用者の反応は今ひとつだったからです。各投稿に「いいね!」ボタンを多少は押してもらえているものの、コメントは付きません。

 「私の発した情報は利用者に本当に伝わっているのかな」。不安を覚えた向井は、キックオフ・ミーティングの際にも協力を仰いだ、同期で「縁」新宿店長である室井に相談を持ちかけることにしました。

 「室井君のおかげでキックオフ・ミーティングは大成功だったよ。ありがとう」

 「それは良かった。みなみの投稿、俺も時々見ているよ。肝心のお客さんの反応はどうかな」

 「工夫して情報を発信しているつもりだけど、今ひとつなの。打ち解けられていないのかな。室井君は、お客さまと打ち解けるためにどんな工夫をしているの?」

 「そうだな。まずお客さんが好きな食材や料理を聞き、好みを知って、それに近い料理をお勧めしている。お客さんが食べたい料理とこちらが勧めたいものが一致するとは限らないからね」

 室井の話を聞き、向井はドキリとしました。これまでファンページの利用者の好みを問いかけたことが無く、向井の判断で情報を取捨選択して発信していただけだったからです。室井は続けます。

 「常連さんには試作中のメニューを評価してもらったり、どんな新メニューが欲しいか意見を聞いたりしている。お客さんが味わいたいものとお店が提供したい料理の中で一致するものを作っておくためだよ。メニュー作りから関わってもらい、お客さんの要望を聞き、店が考えていることを話し合うと、互いの共通認識も強まるしね」