近年、業務の連絡手段が多様化しました。メールやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを使えば、相手と顔を合わせなくても様々な手段で連絡を取れます。しかし相手に行動を起こしてもらいたい場合には注意が必要です。

 あなたがお題目を唱えるだけでは、相手が動いてくれるとは限りません。あなたが相手に依頼したことがどれだけ効果的な内容でも、それが相手にとって他人事の話であったり、必要性を感じなかったりすれば、相手には負担にばかり感じられます。結果、依頼した内容を実行してくれなかったり、中途半端にしか取り組んでくれなかったりして、あなたの目的を達成できません。依頼したい内容がどんな価値をもたらすのかを相手と共有し、動機付け、「自分のこと」としてとらえてもらう必要があります。そのためにコミュニケーションを工夫していかなければなりません。

 本連載はこうしたコミュニケーションの問題を解決する手法を、架空の飲食チェーン「縁(えにし)」グループを舞台に探っています。前回は、SNSの運営を担当することになった販促担当マネジャーの向井みなみがSNSで達成すべき目標を具体化し、オーナーと共有する話でした。その後、向井はまたSNS運営で壁にぶつかってしまっているようです。

課題:旬な情報の提供を現場に依頼したものの、協力が得られない

 「いいね!ボタンを押してもらえなくなっているな」――。自社のSNSの画面を見た向井は、ため息をつきました。立ち上げ当初は順調だった縁グループのSNSですが、しばらくすると伸び悩んでしまったのです。ファン向けページ「Enishiページ」への参加者は、このところほとんど増えません。

 向井はてこ入れ策を検討します。「店舗から新鮮な情報を提供してもらえば、臨場感が高まるはず」。そこで各店舗の店長にSNSで情報を送ってくれるよう、メールで呼びかけました。「SNSに投稿する話題を増やすため、あなたのお店のおすすめの料理や最近の出来事などの情報を送ってください」

 ところがメールを送ってから何日待っても一向に反応がありません。そんな折り、向井はオーナーから呼び出しがかかりました。

「SNSは最近どうなっている」

「伸び悩んでいます。当社の投稿に共感を示してくれる『いいね!ボタン』を押してくれる利用者は3、4人程度。投稿の内容を話題にしてくれたり、情報を発信してくれたりする利用者の数も、当初と比べると少なくなってしまいます」。オーナーの顔が次第に紅潮していくのが向井の目に入りました。

「投稿のネタは誰が作っているんだ」

「全て私です。各店の店長にSNSへ情報発信してくれるようにメールで依頼したのですが、全く集まっていません。現場のオペレーションが忙しいのでしょうか」

「馬鹿もん。現場は忙しいというのに、工夫もなく依頼して誰が協力するというんだ。しかも大事な用件をメールで依頼するとは、伝えるための努力を怠っていると言わざるを得ない。 仕事を放棄しているのと同じだ」 またもオーナーの雷が落ちました。