「経営戦略(事業戦略)を達成するための戦略目標について、バランススコアカード(BSC)に基づきKPI(重要業績指標)を設定したが、その成果をしっかりと把握できていない」という声をよく聞きます。こういった課題の多くは戦略目標に対するKPIの設定に問題があります。「KPIが戦略目標の目的に合った設定になっているか 」「戦略目標のKPIが整合性のあるKPI体系になっているか」にかかっています。

 戦略目標は、すべてがKPIとして数値化しやすいものではありません。数値化できても、人為的な数字の操作ができるKPIでは意味がありません。KPIは経営の管理指標ですので、真実のデータが整合性を持って設定されなければいけません。そうしないと、間違った経営を推進することになりかねません。

 本連載では、中堅ITベンダーの「IST社」をモデルに、プロジェクトメンバーとITコーディネータとの対話を通して、同社の大阪事業部を「儲かる事業」にするための企画を進めています。プロジェクトを推進するうえで前提となっているのは、ITコーディネータ試験の出題範囲に含まれる「ITコーディネータ プロセスガイドライン2.0」です。

 前回の討議で事業のビジネスモデルを策定しましたので、今回はビジネスモデルの戦略目標と事業施策を管理するためのKPIを策定することになります。

重要業績指標は2段階の作業を経て設定

 KPIはバランススコアカードの4つの視点(財務、顧客、業務プロセス、学習と成長)で戦略目標を達成するための評価指標です。また、この指標の目標値は、同時に投資額の算定にも用います。4つの視点の「戦略目標および事業施策のKPI案を設定」し、その後、事業目標と事業施策の「KPIを、整合性を持たせた体系とする」の2段階の作業になります。以下に各作業を概説しておきます。

◆戦略目標と事業施策のKPI案を作成する
 事業目標を達成するうえで、戦略目標や事業施策に基づき事業活動の実態を捉える客観的で測定可能なKPIを設定します。このため、KPI設定基準を作成しKPIをより実態に合った評価指標とすることが必要です。

◆整合性を持ったKPIとして体系化する
 策定したKPIが事業目標に対して整合性を有しているかを確認し、戦略マップの4つの視点のKPIを体系化し、事業目標が達成可能であることを整合性の観点から検証します。

KPIの設定でクリアすべき条件とは?

 私(ITコーディネータ)は今回、先週作成した戦略目標と事業施策に対するKPIの策定で困っているとの話を受け、IST社の大阪事業部を訪ねました。プロジェクトルームに入ると、議論がヒートアップしていました。

営業課長の中川氏:営業の立場からいうと、業績評価指標としてのKPIの基準はすべて金額評価が分かりやすいのだが。

SE課長の上野氏:いや、金額だけで管理するのは無理があると思います。BSCの考え方によれば、「財務の視点」で金額評価は必須ですが、他の視点においては必ずしも金額評価にはならないのでは。

大阪事業部長の山田氏:トップの観点から言えば、戦略目標や事業施策の目的と一致したKPIを設定したいと思うね。そして客観的に把握でき、経営を正しく反映する評価指標にしたい。

私(ITコーディネータ):皆さんの議論をPGL(ITコーディネータ プロセスガイドライン)のモニタリング&コントロールの基本原則から引用しますと、「合目的性の原則」「真実性の原則」あたりの議論になっています。これらの原則を基に考えていきましょう。

 「合目的性の原則」とは、経営戦略フェーズで整合性を取りながらBSC戦略目標を展開していったように、KPIも整合性を持って設定するということです。「真実性の原則」とは、収集したデータが事業活動の実態を正しく反映していることが必要である、ということです。

上野氏:合目的性の原則に関しては、BSCの戦略目標展開で上位整合性を考慮して展開しましたので、そのKPIも整合性を持つことと考えていいですね。

:その通りです。