CSF(Critical Success Factor、決定的成功要因)を策定したのに、結果として「全然儲からなかった!」という話はよくあります。なぜ、うまくいかないのでしょうか。

 その大きな原因の一つは、CSFを「事業の儲かる仕組み」として事前によく検証していない点にあります。経営者やプロジェクトメンバーの頭の中に「うまくいくイメージ」があったとしても、それだけではうまく行きません。きちんと論理的に実現性を検証することが欠かせないのです。この検証をやらないと、CSFはただの「絵に描いた餅」で終わってしまうでしょう。

 儲かる事業の仕組み(ビジネスモデル)を構築するには、いくつか立てたCSFをお互いに連携させて、意図する成果(事業目的や戦略目標)に結びつける必要があります。この検証ができてはじめてCSFを効果的に活用するビジネスモデルが出来上がります。

 本連載では、中堅ITベンダーの「IST社」をモデルに、プロジェクトメンバーとITコーディネータとの対話を通して、大阪事業部を「儲かる事業」にするための企画を進めています。プロジェクトを推進するうえで前提となっているのは、ITコーディネータ試験の出題範囲に含まれる「ITコーディネータ プロセスガイドライン2.0」です。

 前回、プロジェクトは「事業のCSF案」を策定するところまで進み、事業のビジネスモデルを決める準備が整いました。今回はその成果(CSF案)を踏まえて、事業の儲かる仕組み(ビジネスモデル)を策定していきます。

ビジネスモデルを策定する2段階の作業

 事業の決定的成功要因として選定したCSF案は、ビジネスモデルになることが検証できて、はじめてCSFになります。その検証には2段階の作業が必要になります。まず「CSFの論理性を検証する」、次に「ビジネスモデルを確定する」の順に進めます。以下に各作業を概説します。

CSFの論理性を検証する
 CSFは事業を遂行する上での「決定的成功要因」になるのですから、事業が成功する可能性が高いことを論理的に検証する必要があります。検証はBSC(バランス・スコアカード)を用いて行います。CSF案を「事業目的」や「戦略目標」に関連付け、目標とCSF案との因果関係を論理的に見極めます。

ビジネスモデルを策定する
 CSF案と事業/戦略目標との論理的な因果関係を検証した後、業務プロセスの中で機能することを確認し、儲かる仕組みの実現性を検証します。その結果をもとに、最終的なビジネスモデルの構造に整理します。

4つの視点からCSFの論理性を分析

 IST社大阪事業部のプロジェクトはCSF案の選定を終え、「これらのCSF案が本当に儲かる事業へ導いてくれるのか」を検証する作業を始めようとしています。ここで使う手法は「バランススコアカード(BSC)」のようです。

営業課長の中川氏:BSCという手法は、事業目的を「財務」「顧客」「内部業務プロセス」「(従業員の)学習と成長」という4つの階層の視点から分析し、ブレークダウンした戦略目標に対してKPI(Key Performance Indicator、重要業績指標)を設定する手法と理解していますが。

SE課長の上野氏:そうです。「財務の視点」で事業目標を設定した後、「顧客の視点」からそれを実現する方法と戦略目標を考え、さらにそれを実現する方法と戦略目標を「内部業務プロセスの視点」から考え、最終的には「学習と成長の視点」での実現方法と戦略目標にブレークダウンしていく手法です。「目的→手段=目的→手段…」の手順で下位の戦略目標を順次策定していくわけです(図1)。

図1●BSCの戦略マップの基本的な考え方
図1●BSCの戦略マップの基本的な考え方
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大阪事業部長の山田氏:CSF案の選定で事業目的と顧客を定義したが、さらに「顧客のニーズ」と「サービス内容」を、戦略目標に進む前に設定した方が作業を進めやすくなるような気がする。

私(ITコーディネータ):その通りです。CSFの定義が具体的になることで、戦略目標を発想する目標がより明確になります。