東証が実践、「手戻り」と「不具合」を無くす開発手法
東京証券取引所 株式売買システム部長 宇治 浩明 氏
東京証券取引所 株式売買システム部長 宇治 浩明 氏

【講演概要】東京証券取引所は2010年1月に次世代株式売買システム「arrowhead」を稼働させ、売買処理のスピードを飛躍的に向上させた。本セッションでは、東証がarrowheadの構築にあたって実践した発注者としての取り組みについて、品質向上策を中心に、現場責任者が紹介する。

■ 9月7日(火)10:30-11:15 A会場
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担当記者による紹介記事

 “まばたき”するよりも短時間で処理を終える――。東京証券取引所がこの1月に稼働させた、次世代株式売買システム「arrowhead」は、注文データを高速処理できるのが最大の売り物だ。

 注文への応答にかかる時間は、2ミリ(1000分の2)秒。これは、まばたきよりも短い。旧システムでは2~3秒かかっていた。処理スピードは1000倍に高まったことになる。処理スピードを向上できたのは、注文処理にかかわるすべての処理を、サーバーのメモリー上でこなすアーキテクチャーを採用したことによる。

 高速化のための技術については、システム開発や運用・保守に携わる技術者にとって興味深いところだ。だが、技術面の取り組みとは別に、注目すべきポイントがある。それは、arrowheadが1月以来ノーダウンで稼働を続けていることだ。これは、東証が開発の過程で「品質向上」に取り組んだ成果である。

 arrowheadの構築にあたって、東証は「W字モデル」「フィードバック型V字モデル」と呼ぶ開発手法を導入した。W字モデルは、テストの実施を待たずに、テスト計画書やチェックリストの作成に上流工程から取り掛かる手法だ。チェックリストを作成する過程で要件の矛盾や漏れを見つけ、受け入れテストでの手戻りを減らすのが狙いだ。

 フィードバック型V字モデルは、「ある工程で紛れ込んだ不具合は、その直後の工程で発見する」という考え方に基づく開発手法である。例えば、要件定義のフェーズで埋め込まれた不具合であれば、要件定義のすぐ後の基本設計フェーズで見つける。

 W字モデルとフィードバック型V字モデルは、システム開発で一般的な「V字モデル」の欠点を補う考え方である。これに対してV字モデルは、要件定義の内容を最終工程の受け入れれテストで確認する手法。V字モデルに従うと、受け入れテストで不具合が見つかったときの手戻りが膨らみやすい。要件定義書を直してそこから関連する設計書を直し、プログラムを直して単体、結合、総合、受け入れの各テストをやり直さなければならないからだ。

 開発手法の見直しに先駆け、東証はシステムの「発注者」として、要件を細かく矛盾なく定義することを意識した。要件定義書と外部仕様書だけで4000ページの資料を作成、要件項目は1万項目を超える。これら一つひとつについて、テストケースを紐付ける「要件トレーサビリティ」も確保。テストの漏れを完全に無くすことに挑んだ。

 こうした品質向上に向けた取り組みが、ノーダウンにつながっている。システム開発の手戻りとバグに悩む技術者の皆様には、ぜひ本講演をご活用いただきたい。

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