あなたがプライベートクラウド環境の構築を検討しているのであれば、警告しておきたい:これは多大な時間とコストを要する複雑な作業となる可能性がある。本記事では、プライベートクラウド環境を構築した経験のある筆者が自らの体験を元に、注意しておくべき点を10個紹介する。

 自らの仕事や会社のためにプライベートクラウド環境の構築を検討しているって?計画はもう完成しており、ある程度進んでいるって?もしもまだ実際に手を付けていないのであれば、まず最初に以下の項目を確認してほしい。正しい道を進んでいると再確認できる場合もあれば、そうではないことに気付く場合もあるはずだ。

#1:構築に要する時間が常に問題となる

 プライベートクラウド環境の構築作業に費やした時間を取り戻すことはできない。IT部門にたまたま、能力のある手の空いた若手技術者がいるという状況にでもない限り、こういった環境の構築にかかる時間は、あなた(あるいはあなたの部門)が片手間で捻出できる程度には収まらないはずだ。クラウド環境の構築は一筋縄ではいかない(下記の3番の項目を参照してほしい)ことが普通であり、何度も一からやり直すことになるだろう。

#2:必要なハードウェアリソースは莫大である


 使用するディスクのアクセス速度は十分に高速だろうか?また、RAM容量は十分にあるのだろうか?そして、ネットワークは十分高速だろうか?クラウドは、莫大なハードウェアリソースを必要とする怪物だ。一般的なサーバを用いてプライベートクラウド環境を稼働させようとしても、欲求不満に陥る結果に終わるだけだろう。また、クラウド環境を利用するマシンも、旧型のもので良いというわけにはいかない--クライアントマシンも強化する必要があるはずだ。

#3:構築作業は一筋縄ではいかない

 プライベートクラウド環境の構築作業は一筋縄ではいかない。筆者はUbuntu Eucalyptusを用いたプライベートクラウド環境の構築に何週間分もの週末を費やした(そして、構築後には上記2番の項目で挙げた問題に直面することになった)。時間がかかるだけではなく、その道は極めて険しいのである。最初のコマンドを入力する前に(あるいは最初に表示されるボタンをクリックする前に)、構築しようとしているものの背後にあるテクノロジについて、出来る限り理解を深めておいた方が良いだろう。

#4:ネットワークの遅さが問題になることもある

 ネットワークの速度を最高レベルにまで引き上げておかない限り、多くのユーザーから不満の声が上がってくる可能性もある。十分なネットワーク帯域を確保しておかない限り、クラウドサービスを提供することはできない。また、ユーザー数が多ければ多いほど、ネットワークというパイプを太く強化しておく必要がある。5番の項目とも関係するが、あなたはネットワークのために大金を投じる用意があるのだろうか?

#5:コストは一番の障害となる

 ハードウェアが新たに必要となる。ソフトウェアも新たに必要となる。ネットワーク設備も新たに必要となる。こういったものをすべて挙げると、クラウドの信奉者ですら極めて否定的な気持ちになるはずだ。サーバだけでも中小企業のIT予算を超過してしまうだろう。OSイメージを保存しておくには膨大なハードディスク容量が必要であり、マシンを稼働させるには気の遠くなるほどのRAM容量が必要であり、CPUも入手可能な最高速度のものが必要となる--つまり、重装備のサーバが必要になるというわけだ。Amazonは巨大な規模のデータセンターを有しているため、こういったことが可能なのである。中小企業の場合、そのような設備は用意できないだろう。あなたの会社は、大金を投じる用意があるのだろうか?

#6:OSイメージがすべてである

 Eucalyptusサーバを設定する際にダウンロードできるOSイメージは数多くある。FedoraやUbuntu、CentOSなどだ。あなたは(そしてサーバのハードディスクは)、自社内で必要とされる可能性のあるすべてのOSイメージに対応できるのだろうか?そして、こういったイメージには、稼働させる必要のあるアプリケーションは含まれていない。この時点で話はとても複雑になっている。あなたは十分な調査(3番を参照のこと)を行えているのだろうか?

#7:信頼性を甘く見ると、足をすくわれる

 筆者は今までも(つまりシンクライアントやアプリケーションサーバの流行時に)、そして今現在も(つまりクラウドの流行している今)、単一障害点に対する考慮が重要であると主張している。マーフィーの法則は、間違いなくクラウドコンピューティングをも支配しているのだ。考えてみてほしい。クラウドサービスを運用する場合、障害が発生する可能性はずっと大きなものになる。アプリケーションやハードウェアのみならず、ネットワークもダウンする可能性があるというわけだ。そして、ネットワークがダウンした場合、従業員は業務を続行することができなくなる。これは避けたいシナリオだろう。

#8:セキュリティに対してさらなる考慮が必要となる

 クラウド環境をセキュアなものにするにはどうすればよいのだろうか?あなたは、現在の社内LANをセキュアなものにするために、どれだけの時間をかけただろうか?そして今、あなたはシステムをさらに複雑なものにすることを検討している。自社のデータをファイアウォールの外側にあるクライアントに引き渡すということは、何を意味しているのだろうか?在宅勤務者にテレワークを続けさせる覚悟はあるのだろうか?おそらく難しいだろう。そして無理という判断を下した場合、大きな反発を招くことになるはずだ。

#9:環境に優しくない

 クラウド環境を構成するサーバの実態を、あなたは分かっているだろうか?こういったサーバは、1970年代に流行したダサいヘアスタイルの男が運転する古いポンティアック・トランザムに匹敵するものではないだろうか?つまり、大量の燃料(電力)を消費し、エンジンの回転数を落とすことができない(24時間稼働が必要となる)オモチャというわけである。今のところ、クラウドは環境に優しいものとはなっていない。多くの企業がエコへの取り組みを推進している現代において、クラウドを利用するということは、白熱電球の使用と同じくらい無責任な行動と言うこともできる。

#10:プラットフォーム不可知論は成立しない

 筆者がEucalyptusを用いて構築したプライベートクラウド環境では、Linuxが稼働している。Windowsを稼働させたいのであれば、Windowsのクラウドシステムを採用していただろう。クラウド環境を構築する場合、たいていは単一のプラットフォームを選択せざるを得なくなる。WindowsやMac OS、Linuxが混在している世の中にあって、単一のプラットフォームをサポートするだけでは間に合わない。実際のところは、ほとんどの中小企業ではWindowsが導入、展開されているため、そういった企業ではWindowsのクラウドシステムを採用することになるだろう(つまり、多額の投資が必要になるということだ)。とは言うものの、1種類のOSしか導入、展開されていない環境なのであれば、クラウドは最適な選択肢とは言えないかもしれない。

その他の問題は?

 あなたは本記事を読んで、プライベートクラウド環境の構築に躊躇を覚えただろうか?それとも、自らの経験によって、これらの懸念を払拭できると言い切れるだろうか?あなたの意見を聞かせてもらいたい。クラウドはコンピューティングにおける未来の姿なのかもしれない。もしそうなのであれば、これらの懸念は解消しておく必要があるはずだ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。原文へ