IT投資予算の縮減、開発案件実施の見送り、実施途中のプロジェクトの凍結を決断する顧客が増えている。可能な限りコストを削減し、景気後退に伴う業績の悪化を抑えるためだが、すべての要望を受け入れればソリューションプロバイダの経営が立ちゆかなくなる。自らの業績悪化に直結する縮減・見送り・凍結を切り返す創造的な提案が今、求められている。



 「もうだめだ」。2008年9月、米金融機関の経営危機のニュースをネットで確認しながら、アシストの橋本隆志 のれん事業推進室チャネルマーケティング部部長は思わず手で顔を覆った。

 橋本部長は当時、この金融機関の日本法人へ大規模なWebシステムの構築を提案していた。具体的な開発案を示して顧客に発注の判断を仰ぐ直前で、親会社の経営危機が表面化したのである。

 日本法人へすぐに電話して状況を確認すると、担当者は「案件への判断は下せなくなった」と説明するばかりだった。1年以上たった今も商談再開のめどは立っていない。

 ソリューションプロバイダが直面している課題は、上記のような案件の「凍結」だけではない。2009年11月に政府の行政刷新会議が実施した事業仕分けになぞらえれば、開発や保守、運用コストの削減といった「縮減」や、ハードウエアなどの更新の先送りという「見送り」にも直面している。増加しているとされるトラブルを減らすうえでも対処が急がれる。

 売れない理由を不況のせいにしても事態は好転しない。直面する課題を乗り越え、売り上げや利益を確保するため、危機への切り返し能力を磨くときだ。縮減・見送り・凍結の状態を脱し、案件の獲得や案件の黒字化につないだ実例を本特集では紹介する。不況下を生き抜く術を身に付けてほしい。

縮減 前提を覆し驚きをもたらす

 急激な業績悪化で先行きが見通せない。こんなときに顧客が真っ先に求めるのは、開発案件や既存システムの保守運用コストを含めたIT投資の削減、つまり縮減である。

 ソリューションプロバイダの営業担当者の腕の見せ所は、顧客の要望する縮減に応えつつ、いかに自社の利益を確保するかだ。トラブルは避けなければならない。これを実現した営業担当者の多くは、前提を覆す提案で顧客に驚きをもたらし、大幅縮減という現実のなかで、利益を確保している。

受注確定後5000万円削減を要請される

 約2億円の開発案件で5000万円のコスト削減要請を受けながら、利益を確保したのが、NECネクサソリューションズの岡田聡製造・装置ソリューション事業部第二営業部長である。

 岡田部長は2008年12月、ある製造業に対し、ERP(統合基幹業務システム)パッケージ「EXPLANNER」を使った生産管理システムの開発を、約2億円で提案。ほどなくして受注確定の知らせを受けた。

 だが案件獲得を喜んだのもほんのつかの間のこと。受注確定後、しばらくすると「開発費を5000万円、削減してもらえないだろうか」という縮減要請が顧客から寄せられたのだ。



本記事は日経ソリューションビジネス2009年12月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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