「それじゃ採算が合わない」。当初はあきらめかけた提案だった。「今、このサービスを立ち上げないと商機を逃す」と事業化に賭ける営業担当者の熱意が、4社競合を制した。

=文中敬称略


 「御社は提案しないのですね」。上條浩一からこう問われた瞬間、早田麻子の営業魂に火がついた。「この案件を必ず受注する」と決心したのである。

 早田は、京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のICT営業本部東日本ビジネスイノベーション営業部事業部長だ。データセンターがテーマのセミナーを2007年11月に開催したときに、参加したのが米国の医療機器メーカーの日本法人である、ボストン・サイエンティフィック ジャパン(BSJ)情報技術部長の上條だった。

 BSJはサーバーなどをITベンダーのデータセンターに委託していたが、2008年には更新時期が来る。これを機に品質向上やコスト削減につなげたいと、上條は新たなITベンダーを探していたのだ。

 上條のニーズを聞くと、早田はすぐ商談につながると感じた。KCCSは国内に数カ所のデータセンターを備え、ITサービスマネジメントの国際規格であるISO20000を取得している。データセンター事業に自信を持っていた。

 だが上條の話を聞くと、早田の自信が不安に変わった。「データセンターだけでなく、パソコンのサポート業務まで含めて委託したい」と言ったのである。しかもサポート担当者が常駐し、業務システムの改善提案などを積極的に出してほしいという意向もあった。

 KCCSはパソコンのサポート業務を手掛けていなかったが、ここで降りると答えたら、データセンターの商談は獲得できない。早田の心は決まっていたが、サポート業務はKCCSにとって新規事業だ。一人では判断できない。RFP(提案依頼書)をもらってから社内で検討するしかなかった。



本記事は日経ソリューションビジネス2009年12月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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