米国時間9月10日に米下院で開かれた公聴会で,Googleは書籍デジタル化プロジェクトへの反対派に新しい提案をしたが,Amazonは反対の姿勢を崩さなかった。

 今回の動きには,Googleの書籍デジタル化プロジェクトと,作家や出版業界の団体が同プロジェクトに反対して起こした集団訴訟の和解案の主要な論点が絡んでいる。具体的に言うとGoogleは,和解によって同社が手に入れる権利(と売り上げ)の一部を競合他社にも与える再販プログラムを発表した。

 「Amazon,Barnes & Noble,Microsoftなどすべての書籍販売業者が,和解の対象となる書籍を販売できるようになる」と,Googleの最高法務責任者(CLO)David C. Drummond氏は述べた。和解案では,Googleは同社のサービスを通じて販売された電子書籍の売り上げの37%を得るが,その37%の「大部分」は再販プログラムによって再販業者に渡る,とDrummond氏は説明した。

 Drummond氏は,「Google Books」プロジェクトに端を発したデジタル書籍問題をめぐる米下院司法委員会の公聴会で,この提案を発表した。和解案が受け入れられれば,Googleは,著作権保有者との明白な合意が得られた書籍だけでなく,同社が明白な許可を得ていない,絶版になっていてもまだ著作権法で保護されている書籍も販売できる権利を手に入れる。

 Googleにこうした包括的な承認を与えることを懸念する見方もある。特に,許可を得て300万冊の書籍をスキャンしてきたAmazonは和解案に反対しているが,Drummond氏は,Amazonも売り上げの分配プログラムに参加できると明言した。

Amazonは拒絶

 だがAmazonは,司法委員会の委員長を務めるミシガン州選出の民主党議員John Conyers氏から,Googleが示したこの「胸躍る新情報」に対する反応を問われて,関心がないことを明らかにした。

 「インターネットの役割は仲介ではない。他の誰かの手を借りなくても,われわれは著作権保有者とうまくやっている」と,Amazonのグローバルポリシー担当バイスプレジデントを務めるPaul Misener氏は述べた。

 公聴会では,委員長を含め,一部の代表がGoogle支持派であることも明らかになった。カリフォルニア州選出の2人の民主党議員,Zoe Lofgren氏Brad Sherman氏も,総じてGoogleの取り組みを支持する発言を行った。

 「普通なら閲覧する方法がない作品を多くの米国人が閲覧できるようにするのは良いことだ。インターネットに接続された,全世帯が利用できる図書館のようなものだ。グーテンベルクが活版印刷術を発明して以来,書籍出版における最も偉大な革新になるかもしれない」と,Conyers氏は述べた。

 だが,Marybeth Peters氏という,明確に反対の立場を表明する人物も登場した。Peters氏は米著作権局で著作権登録を担当している。

 「Googleが数々の新しい利用法に関わることを認める和解案は,(事実上,著作者に作品の『強制許諾』を強いて)著作権法をめぐる状況を一変させるだろう」と,Peters氏は指摘した。

 「強制許諾は,裁判所ではなく議会で扱われるべき問題だ」とPeters氏は述べ,Googleがスキャンしている米国の図書館蔵書の中に米国以外の著作者による作品が含まれていることから,和解案が原因で米国に対して外交圧力がかかる可能性があると付け加えた。

オプトインかオプトアウトか

 Googleは,電子書籍をオンラインで販売できるようにしたいと考え,プログラムの一環として2004年以降約1000万冊の書籍をスキャンしてきた。そのうち約200万冊は著作権で保護されていない作品で,Googleにかぎらず,誰でも好きなように扱うことができる。残り約800万冊のうち約200万冊は,現在出版されていて著作権で保護されている作品で,Googleは著作権保有者から許可を得ている。それ以外の約600万冊は,絶版になったがまだ著作権法で保護されている。大論争を招いているのはこの約600万冊で,特に,著作権保有者の所在が不明な,いわゆる「孤児作品」の場合だ。

 Misener氏は,この集団訴訟によって,Googleが最初に許可を得なくても,著作権で保護されている絶版本へのアクセスを販売する権利を得られるようになるかもしれないということについて,特に異議を唱えた。

 「Googleは,オプトアウト方式で著作権を扱おうとする世界で唯一の企業だ」とMisener氏は述べた。つまり,オプトアウトしない限り,作家や出版社はGoogleのプロジェクトに参加していることになるのだ。

 「Googleは,オプトアウト方式で著作権を扱うことのできる世界で唯一の企業だ」とMisener氏は述べた。つまり,オプトアウトしない限り,作家や出版社はGoogleのプロジェクトに参加していることになるのだ。「ほかの皆は,現行の法体制,つまりオプトイン方式に従わなければならない」(Misener氏)

 ジョージア州選出の民主党下院議員であるHank Johnson氏も,Misener氏と同じ懸念を抱いていた。「Googleが孤児作品への独占的なアクセスを掌握するようになることについて,私は危惧の念を抱いている。なぜ,Googleが孤児作品の販売を許される唯一の企業になるのか」とJohnson氏は疑問を呈した。さらにJohnson氏は,現在係争中の本件が,同氏の担当する政府部門の職務範囲に近づいてくる可能性があると考えている。

 ただし,Googleが提案した和解案において,孤児作品の権利保有者が完全に無視されているわけではない。Googleは,Book Rights Registryと呼ばれる非営利団体を設立し,同団体は(Googleの取り分を引いた)売り上げを回収し,そのお金で行方不明の権利保有者を見つけ,そして彼らやそのほかの権利保有者に著作権使用料を支払ったりするつもりだ。

 Googleは,同社のプログラムによって,孤児作品を含めた,膨大な量の絶版本から再び利益を生み出せるようになるだろう,と主張している。Sherman氏は,ベストセラー作品のデジタル化には力を入れるものの,ほかの書籍のデジタル化には積極的でないAmazonを批判し,Googleの見解を補強した。

 しかし,Misener氏はAmazonの立場を支持した。「われわれは,前もって権利保有者が分からない書籍については,スキャンを行っていない。法律で,そうするように定められているからだ」と同氏は述べた。

 Sherman氏は,孤児作品をめぐる状況を,引き取り手のない土地になぞらえた。「われわれは,使われていない土地や,引き取り手のない土地を有効に使いたいと考えている。そして,われわれは,最終的に所有者が見つかった場合,使用料を支払いたいとも考えている」と同氏は述べた。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。原文へ

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