「ロボット」といえば、真っ先に思い浮かぶのは鉄腕アトムやASIMO(アシモ)に代表される2足歩行型のロボットだろう。そして、「ロボコン」といえばテレビでも放映されている“高専ロボコン”がイメージされるのではないだろうか。しかし、ロボットは2足歩行に限定されるものではないし、高専ロボコンだけがロボコンではない。むしろ、これらのイメージにとらわれすぎては、ロボットを作ったり、ロボコンに参加したりことの楽しさや意義の何割かを見落とすことになりかねない。

 「初めてのロボコン」と題した本書は、自律型ロボットの自動制御技術を競い合うロボットコンテスト「WRO(ワールド・ロボット・オリンピアード)」に参加するための入門本である。アジアを中心に、30カ国以上が参加するWROは、小・中・高校生を対象にしたロボコンだ。ロボットは、レゴ社が提供する教育用レゴ マインドストームだけを使って作り上げる。2足歩行はせず、タイヤを使って動く車型のロボットが主役だ。今年も、国内決勝大会がこの8月23日に、東京の科学技術館で開かれる。

 高専ロボコンもWROも、与えられた課題をいかに正確に、かつ早くクリアするかを競い合う点では共通だ。だが高専ロボコンが、機械的なアイデアだけでなく、素材の選択やその加工技術、それを可能にする高度な工作機械の有無などが結果を左右する。これに対しWROで使える部品は、レゴブロックで共通だし、プログラミング環境も同じ。競技に参加するための機材面でのハードルが低いことが、より多くの小・中・高校生が参加できる理由の一つである。

 小・中・高校生が参加するロボコンということで、本書の前半では子供たちに、いかにWROに参加することが楽しいかを使えると同時に、勝つためにはチームワークや試行錯誤しながら課題を解決している論理的アプローチの重要性を優しく伝えようと工夫した。新たなキャラクタによるアニメを作成したり、国際大会出場者にも多数インタビューしたりしたのは、できるだけ現場の雰囲気を伝えたかったからだ。

 一方、後半ではロボコンに取り組むことが、教育の側面でも注目されていることを、子供たちの保護者や学校の先生に伝えることに誌面を割いている。WROに出場するには、2人または3人の子供のチームに、大人が必ずコーチとして加わる必要があることもあるが、大人にロボコンの楽しさや意義を伝えることこそが、ロボコンに参加したい子供たちへの応援になるし、ロボコン自体の活性化につながるからだ。WROに熱心な福井県の教育長や、前年に小・中・高のそれぞれ国際大会出場を果たした宮崎県の東国原知事へのインタビューも実施した。

 編集作業中は、子供たちやコーチたちへのインタビュー原稿や、彼らからの寄稿などが届くたびに、「なるほど~」「しっかりと自分の考え方を持っているのだなぁ~」と感心することしきりだった。本稿をご覧の方は、大人の方であろう。WROやロボコンそのものに関心がなくても、本書をご覧になれば、ここに登場する子供たちから、“元気の素”を受け取れるのではないだろうか。

 特に、子供のころレゴに夢中だった方や、憧れていた方。あるいは今現在、プログラミングやモデリングなどIT関連業務に携わって方々には、是非本書を手にとっていただき、その経験やスキルを自らや地域の子供たちに伝えてほしい。そのことが、子供たちの理系離れや“ただ使うだけの人”の増加を防ぐはずである。そんな大義名分もあるものの、ロボット作りに親子や友人・仲間たちとはまってみるきっかけに本書がなれればと心から思う。

初めてのロボコン WRO Japan公式ガイドブック

初めてのロボコン WRO Japan公式ガイドブック
日経コンピュータ編
日経BP社発行
1000円(税込)