クラウド・コンピューティング時代のSOAとEA
日本IBM 金融事業CTO(最高技術責任者) ディスティングイッシュト・エンジニア(DE、技術理事) クライアント・テクニカル・アドバイザー、I/Tアーキテクト 山下眞澄氏
日本IBM
金融事業CTO(最高技術責任者)
ディスティングイッシュト・エンジニア(DE、技術理事)
クライアント・テクニカル・アドバイザー、I/Tアーキテクト
山下眞澄氏

【講演概要】クラウド・コンピューティングの登場によって,企業はネットワーク経由で膨大な計算資源を「投資ではなく経費」として活用できるようになりました。この激変するITの世界で生き残っていくために,SOAとクラウド・コンピューティングの定義と価値を改めて確認するとともに,中長期的なEAに基づく実現に向けた方策を示します。

  • 9月15日(火)11:40-12:25 B会場

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    担当記者による紹介記事

     技術の進化が激しいIT業界で長年にわたり活躍できるIT技術者とは,どんな人なのだろうか。日本IBMでディスティングイッシュト・エンジニア(DE)として活躍する山下眞澄氏は「ITの“パラダイムシフト”に対応できる技術者だ」と即答する。パラダイムシフトとは「発想や思考の転換」という意味。「IT業界の変遷は過去も現在もイノベーション(技術革新)の連続であり,イノベーションは常にパラダイムシフトを伴う」(山下氏)。ダーウィンの進化論と同様,変化に強い者だけがIT業界でも活躍できるというわけだ。

     では,最近のIT業界におけるパラダイムシフトとは何だろうか。真っ先に浮かぶのが「クラウドコンピューティング」だろう。クラウドコンピューティングの登場によって,「企業はネットワーク経由で膨大な計算資源を活用できるようになる」(山下氏)。

     あるパラダイムシフトが,また別のパラダイムシフトを引き起こすことはよくある。山下氏は「クラウドコンピューティングの登場によって,これまで注目を集めつつも普及が進まなかったある技術がブレイクする」と予言する。その技術とはSOA(サービス指向アーキテクチャ)だ。

     クラウドコンピューティングが普及すると,「異なる企業や組織がお互いにシステムを相互連携する必要性がさらに高まる」(山下氏)。ここでいう相互連携とは,単にそれぞれの拠点をネットワークでつなぐという意味ではない。お互いのシステムのアプリケーションが必要に応じてメッセージをやり取りしながら,一つの処理を完結させるといったイメージである。

     このようなことを実現するには,複数の企業や組織のシステムがメッセージをやり取りするための共通インタフェースが不可欠になる。ここにSOAの概念が生きるというわけだ。「SOAの意義はインタフェース定義をXMLという業界標準に準拠して記述することにある」(山下氏)。

     SOAというキーワードは登場して7年近く経つがあまり浸透していないのが現実だ。山下氏は「SOAの定義や価値,サービスの粒度の決め方などに対する議論が不十分だった」と振り返る。「特に中長期的な視点に立った発想が不足していた」と続ける。例えばあるソフトをサービスとして定義する際,そのサービスを今後5年以内に何回使う可能性があるか考えるということだ。「当然,ビジネス戦略を基に考えなければならない」(山下氏)。

     こうした視点抜きに,片っ端からソフトをサービスとして定義していっても,再利用しないなら意味がない。それどころか,SOAを導入したら複雑なシステムがますます複雑になったということになりかねない。

     山下氏は,クラウドコンピューティングが普及しつつある今こそ「SOA導入のチャンス」とみる。ここでカギを握るもう一つのキーワードとして,山下氏はエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)を挙げる。中長期的な視点でEAに沿って業務とシステムの将来像を明確にして,現状とのギャップをつかむ。さらに優先度をつけてSOA導入のロードマップを考える。その先にクラウドコンピューティングの実現があるというわけだ。

     日本IBMの山下氏には「ITパラダイムシフトにどう向き合うか~クラウドコンピューティング時代のSOAとEA~」というテーマで講演していただく。EAに基づくSOA実現の方策,金融機関におけるSOA導入の成功事例などを披露してもらう。山下氏曰く,SOAによって変化に強い柔軟なシステムを実現する秘訣は,「変化しない普遍的なアーキテクチャを明確にすること」だそうだ。変化に強いシステムを実現し,変化に強い技術者として活躍し続けるために,山下氏の講演をご活用いただきたい。