中国政府の検閲ソフトウェアには,巨大なボットネットを構築するハッカーに悪用される恐れのあるセキュリティ脆弱性が含まれている,と専門家は警告する。

 ミシガン大学の専門家によると,脆弱性の根本的な原因は「Green Dam Youth Escort」ソフトウェアにあるという。中国工業情報化部は現地時間6月9日,中国で発売されるすべての新品コンピュータにGreen Damをプレインストールすることを義務付ける,と述べた。

 「Green Damをインストールしてしまうと,ユーザーの訪問先となるウェブサイトは,これらの脆弱性を突いて,コンピュータを乗っ取れるようになる」と同大学の研究チームは書いた。「これにより,悪意のあるサイトは,個人データの窃盗やスパムの送信,コンピュータのボットネットへの追加などを実行することが可能になる」(研究チーム)。この警告は,Scott Wolchok氏とRandy Yao氏,J. Alex Halderman氏が米国時間6月11日に発表した論文に掲載された。

 Green Damソフトウェアは,URLやウェブサイトの画像をブロックしたり,ほかのアプリケーションのテキストを監視したりすることで,コンテンツをフィルタリングする。フィルタリング用のブラックリストには,政治的なコンテンツとアダルトコンテンツの両方が含まれている。

 研究チームによると,彼らはGreen Damを1日テストしただけで,ウェブサイトの要求を処理するコード中にプログラミングエラーがあることを発見したという。そのエラーにより,同ソフトウェアを実行するすべてのコンピュータ上で,バッファオーバーラン状態が発生する,と彼らは述べた。

 「このコードは,固定長バッファを持つURLを処理する。そして,特別に生成されたURLは,このバッファをオーバーランさせて,実行スタックにエラーを発生させることができる」と研究チームは述べた。「ユーザーの訪れるあらゆるウェブサイトが,悪意のあるURLを持つページにブラウザをリダイレクトし,コンピュータを乗っ取ることが可能だ」(研究チーム)

 研究チームは,脆弱性の存在を示す概念実証プログラムを構築した。研究チームによれば,そのプログラムを使えば,Green Damを実行しているコンピュータは必ずクラッシュするという。

 さらに,Green Damは,ブラックリストの脆弱性を突くことにより,コンピュータ上にほかのプログラムをインストールする目的にも利用可能だ。この脆弱性により,Green Damのメーカーだけでなく,彼らになりすましたサードパーティーも,フィルタアップデートをインストールした後で,任意のコードを実行し,ユーザーのコンピュータに悪意あるソフトウェアをインストールすることができてしまう。

 中国国営の新華社通信の報道によれば,Green Damの開発元であるJinhui Computer System Engineeringは,同ソフトウェアはスパイウェアではないと述べたという。「私たちのソフトウェアは単なるフィルタであり,インターネットユーザーをこっそり監視することなどできない」とのJinhuiの発言が引用されている。

 新華社通信の記事は,フィルタ自体を使ってスパイウェアをアップロードすることが可能なのかどうかには触れていない。

 ミシガン大学の研究チームは,Green Damを実行している人に対し,同ソフトウェアを即刻アンインストールするよう勧めている。

この記事は海外CBS Interactive発の記事をシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。 原文へ