「T-Mobile G1」は,2008年で最も待望された携帯電話の1つであり,T-Mobileから同製品が発表された時には,筆者も大いに胸を躍らせた。今回,筆者は,G1と1対1で向き合う時間を持つ幸運に恵まれた。

 G1は,デザインが特にすばらしいわけではないし,いくつか必要な機能が足りない点もあるが,それでもHTCとT-Mobileがこのような前進を果たしたことには称賛をおくりたい。完ぺきとはいえないが(そもそも完ぺきな電話というものが存在し得るのかという問題もある),G1は何より携帯電話業界に対する新しい考え方に向けた重要な第一歩といえるだろう。G1の登場は,また1つ新しい電話機が増えたということ以上の意味を持つ。つまり,G1の本当の魅力は,デバイスの支配権をユーザーの手に引き渡すオープンソースデバイスとしての可能性にある。G1がその可能性を現実のものにするかどうかはまだわからないが,見込みは大いにあると筆者は考えている。

 「壁に囲まれた庭」とは,携帯電話業界でよく聞かれるコンセプトだ。この言葉は基本的に,端末からサービス,アプリケーションまで,ユーザー体験のあらゆる面を1事業者が支配する環境を言い表したものである。米国の携帯電話業界ではこれまでおおむね,携帯キャリアがその支配者であった。しかし,2007年6月末に「iPhone」が出現して以来,このコンセプトに変化が現れはじめた。

  AT&Tは,他のキャリアやメーカーに比べて,Appleとの関係で一歩後ろに引いた立場を取ってきた。AT&TがiPhoneの開発において一定の発言権を持っていたことは間違いないだろうが,Fred Volgestein氏は2008年初めにWiredの記事で,iPhoneをどのような外観や機能を持った端末にするかについては,キャリアであるAT&TではなくAppleの方が主導権を握っていたと指摘している。結果は依然として「壁に囲まれた庭」ではあるわけだが,Appleがデバイスの開発,ミュージックストアの運営,アプリケーション提供者の管理をすべて行うという点を考えると,これまでとは違った風景を見せる庭だといえる。対照的に,AT&Tは,サードパーティーアプリケーションについて発言権を持っていない。AT&Tは,もはや門番ではなく,iPhoneとAppleのサービスを通過させる通路として機能することのみを使命とする,「単なる土管」となっている。同じように単なる土管になってしまうことを恐れて不安におののいているキャリアも間違いなくいるだろうが,ユーザーにはメリットがあるだろう。そしてG1は,囲まれた庭の壁の崩壊をさらに進める可能性を秘めている。

 G1は,GoogleとOpen Handset Allianceが開発したOS「Android」を搭載している。Androidは,他の携帯電話OSと異なり,完全にオープンソースである(全ソースコードが米国時間10月21日に公開された)。この点においてAndroidは,Palm,Windows Mobile,Appleの携帯用OSとも,さらにSymbianとも大きく異なる。G1では,ユーザーと開発者がすべてを手にすることができる。

 業界の常識を変えるもう1つの要素として,Android用アプリケーションストアがある。Appleが「iTunes App Store」を厳格に管理しているのに対し,Googleはより干渉をさし控えるアプローチをとっている。開発者はコミュニティー参加の申し込みをしてサービス契約に署名する必要があるが,いったん参加手続きをすれば,コミュニティーの一員として認められる。承認を受ければ,あとは自由にアプリケーションをアップロードできる。その後の役割は,Googleではなく,コミュニティーの仲間に引き継がれる。コミュニティーのメンバーは,不適切と判断したコンテンツにフラグを立てることにより,そのアプリケーションをチェックする必要があることを知らせることができる。フラグを立てられたものについてはGoogleが内容を確認し,悪質なものである場合のみ削除することになっている。なかなかうまい方法だ。

 語るべきことはほかにもあるが,とにかくG1が,携帯電話業界の新しいモデルとなるものであることは明らかだ。G1端末は,オープンソースのOSを搭載し,複数の関係者が関与しているため(Amazonがミュージックストアを運営することも忘れてはならない),Googleであれ,HTCであれ,T-Mobileであれ,1事業者が単独でユーザー体験を支配することはない。確かに,筆者は少々理想化し過ぎているかもしれないし,本当のところユーザー体験がどのようなものになるかは時が経って初めて明らかになることだが,それでもG1は,ユーザーにデバイスの支配権を譲るという点では,これまでの他のどの携帯電話にも勝っている。キャリアは今後も携帯電話の使い方についてある程度の発言権は持ち続けるだろうから,この先携帯電話がコンピュータほど自由なものになるかどうかは疑わしいが,G1は少なくとも希望を与えてくれる。G1がこれほどの注目に値するのも,希望を与えてくれるものだからにほかならない。

この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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