「競合相手に開発プロセスを監視させると言われた」「社内派閥を理由に、既存システムの情報を教えてもらえない」「無償でOSやミドルウエアを保守するよう要求される」―。
 ソリューションプロバイダに対し、理不尽ともいえる過度な要求を突き付ける“モンスターカスタマー”が増えている。IT関連企業に勤務し、顧客と接している849人に本誌が実施したアンケートと独自取材から、モンスターカスタマーにどう対処すべきかが浮かび上がった。



 メーカー系SIerのベテラン営業、山田和夫氏(仮名)は今春、10年来の付き合いがある製造業A社のシステム部長から、「小林正氏(仮名)を御社に出向させたい」と切り出された。実は小林氏は競合SIerから、A社に出向している人物。「それだけは勘弁してください」と頼み込んだが、聞き入れてもらえなかった。それどころか、契約を打ち切るとまで言われてしまった。

 システム部長の狙いは、開発プロセスの問題点を互いに指摘し、業務改善につなげたいというもの。だが競合SIerの社員を受け入れれば、社内機密が筒抜けになる。派遣法など法律にも抵触するのではないか、と山田氏は不安を感じたという。

 社内で議論を重ねた結果、小林氏が一切、山田氏の会社のLANや情報システムへアクセスできない形で受け入れることに合意した。しかし、「二度とこのようなことにかかわりたくない」と山田氏は振り返る─。

 山田氏の体験は、ソリューションプロバイダの営業担当者にとって決して他人事ではないはず。こうした理不尽ともいえる過度な要求を突き付ける顧客が、“モンスターカスタマー”だ。

 本誌の取材の結果、IT業界のモンスターカスタマーには、発注したい内容が不明確な「あいまい型」、過度な値下げや無償のサービスを求める「ケチケチ型」、理不尽の極みといえるようなことを要求する「無法者型」の3タイプがいることが分かった。冒頭の事例は、それほど数は多くないものの、SIerにとって最も対処の難しい無法者型の典型例といえる。

6割超があいまい型に悩む

 しかも、モンスターカスタマーは増加している。本誌が8月下旬、SIerなどIT関連企業に勤務し、顧客と接している849人を対象に、インターネットで実施したアンケート調査から判明した結果だ。「理不尽な要求をしてくる顧客は増えているか」との問いに、849人中463人が「そう思う」「ややそう思う」と回答。その割合は、54.5%に達している。

 モンスターカスタマーの中では、あいまい型が最も多い。「顧客から困ったと感じる要求をされた」という回答のうち61.6%が「何度、話を聞いてもどんなシステムを作りたいのかが不明確な中での提案依頼」という顧客に悩んでいる。「顧客企業に明確な戦略がない状況での新たな提案の要求」を受けたという回答も51.9%に上る。

 売上高50億円規模の中小SIerでSEから営業に転身した佐々木隆氏(仮名)は昨年末まで5年にわたって、あいまい型のモンスターカスタマーに悩まされていた。

 佐々木氏は2002年春、中堅ながら急成長していた金融業B社のIT部門から声を掛けられた。業務拡大に伴い、基幹業務システムの再構築を提案してほしいというものだ。しかも社長肝いりの全社プロジェクトの一環だという。予算は3億円、期間は1年だった。早速、訪問したところ、B社のIT部門から、「我々はシステム開発についてはプロではない。御社に全面的にお任せしたい」と言われた。同時に、「社長が独断で決めているので、現場の業務部門は今回のシステム再構築に反対している。既存システムについて、業務部門へのヒアリングは厳しい」と告げられてしまった。佐々木氏は提案のしようがなかったという。



本記事は日経ソリューションビジネス2008年9月30日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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