BRICsの一角を占め、経済発展を続けるブラジル。日系人は150万人で、親日家も多いとされる。地球の真裏にあるこの国に新たなオフショアリング・パートナーを求め、日本のITサービス企業が注目し始めた。ブラジル現地取材を敢行し、ITベンダーの実態に迫った。



 今年は、日系人のブラジル移住100周年という記念すべき年だ。その節目を祝うかのように、日本企業がブラジルのITベンダーに“接近”し始めている。

 三菱商事は、ブラジル大手のSIerであるPOLITEC(ポリテック)と資本・業務提携。共同でポリテック・ジャパンを今年5月末に立ち上げた。三菱商事のIT関連子会社であるアイ・ティ・フロンティア(ITフロンティア)は既に2007年10月から、ポリテックにシステム運用・監視業務を委託している。

 ITサービス業界最大手のNTTデータも、ブラジルのITベンダーの研究を水面下で進めている。NTTデータの重木昭信副社長は今年3月、24時間以上かけて地球の真裏に位置するブラジルに渡った。重木副社長は部下と共に、ポリテックの幹部と面談。同社の開発拠点も視察した。

 重木副社長や、同行したNTTデータの端山毅SIコンピテンシー本部SEPG部長は、「パートナーとして組めそうだ」との手応えをつかんだようだ。NTTデータは年内にも、ポリテックに一部の開発業務を試験的に委託する予定である。

 これだけではない。「今年4月に国内大手SIer数社の担当者から、ブラジルITベンダーに関する情報を求められた」。オフショアリング動向に詳しいガートナー ジャパンのリサーチ部門リサーチディレクターである足立祐子氏はこう明かす。

 同様の動きは今後も広がりそうだ。例えば野村総合研究所(NRI)は、「ブラジルのITベンダーと協業するといった具体的な話はまだないが、今年に入って調査に着手したことは事実」(広報)という。日立製作所もNRIと同じである。

メインフレーム系技術者数は米国に次ぐ

 なぜ、ブラジルITベンダーへの関心が高まっているのか。その理由について、ガートナーの足立氏はこう述べる。「中国・インドのエンジニア単価が、最近になって上昇していることから、大手SIerは新たなコスト抑制策を検討せざるを得なくなった。一つの方策としてブラジルに注目している」。例えば、ブラジルと日本では12時間の時差がある。日本のITベンダーは、現状よりも安く24時間フルタイムの開発/運用・保守体制が組めることを期待しているわけだ。

 NTTデータは、ITベンダーのスキルに着目する。「メインフレーム関連技術、バージョンの古いUNIX OSやデータベースなどのスキルを備えた若手エンジニアが多い。日本では不足しつつある分野だけに、興味がある」。既に2度、ブラジルに渡ってITベンダーを視察したNTTデータの端山部長はこう述べる。

 「ブラジルには、SOA(サービス指向アーキテクチャ)やWeb2.0といった新規分野の技術が得意で、米国大手ユーザー企業向けの仕事を数多くこなしているITベンダーもある。技術力の高さは予想以上だった」。こう語るのは、日本の中堅SIerであるロココの長谷川一彦社長である。同氏は2007年 11月にブラジルで大中小の35社を訪問し、現地のITベンダー事情に詳しい。

 「ブラジルは、エンジニアの多様性という点で、中国やインドよりも優位に立っている。日本のSIerのニーズに応じて、レガシー系技術や最新技術に強い IT人材を、適材適所で供給できる」。日本のJISA(情報サービス産業協会)に相当するブラジルのBRASSCOM(ブラスコム、ブラジルIT・情報通信企業協会)のアントニオ・ジル会長は、こうアピールする。

 ブラスコムによれば、メインフレーム関連技術者(COBOLやデータベース・ソフトのADABASなど)の数は、米国に次いで多い。COBOLプログラマだけをとっても、2万5000人以上である。米IBMのオフコン「AS/400」関連のスキルを備えた技術者も数多くいるという。



本記事は日経ソリューションビジネス2008年8月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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