好調な需要に支えられてきたITサービス業界。金融や製造を中心に堅調なIT投資が続き、ここ数年のITサービス業界は久々の好景気に沸いた。ところが、昨年になって製造業を中心にIT投資が減速する兆しが見え始めるなど、少し雲行きが怪しくなり始めているのが現実だ。

 一方で、これから新たに生まれる市場もある。その新しい市場を生み出す引き金を引くのが、制度改革や規制緩和による市場の「オープン化」だ。 規制で守られてきた業界の代表格といえば、通信や医療、金融が真っ先に挙げられるだろう。そこでは規制の弊害が問題視され、業界の壁を取り払い新規参入を促すなどして競争原理を持ち込み、市場全体のパイを広げて成長させる流れに変わった。加えて2008年以降は、さらに新しい改革の波が押し寄せ、ますます市場のオープン化が進むことになる。

 その結果、IT投資が増大する筆頭格になりそうなのが、医療・健康と金融という二つの分野だ。業界内の横の連携が強化され、既存システムの改修や更新が活発になるだけでなく、新しいシステムをフル活用した最先端の金融商品や、健康管理のソリューションが注目されるはずだ。折しもNGN(次世代ネットワーク)の商用化が目前に迫り、こうした動きを加速させることになる。迫り来る大きな波──。その全貌をお見せしよう。

医療・健康:メタボ対策市場は7兆円、「予防系」に大きな商機

 東京・豊洲のNTTデータ本社。地上30階以上あるこの高層ビル内では、昨年11月1日を境に階段が急に混雑するようになった。その理由は「社内で“運動会”を開いている」(NTTデータ社員)からというのだ。

 運動会といっても、実際に社員が走り回って競争するわけではない。社員一人ひとりが歩数計を携行し、歩いた歩数を競うバーチャルな社内競歩大会が開かれているのだ。その参加者は、約5000人にも上る。

 参加者は一日の業務を終えると、歩数計をパソコンに接続してデータをサーバーにアップロードする。すると、歩数の履歴や合計、社内での順位などがパソコンの画面に表示される。このように大会を開催して競わせることで、NTTデータは社員に運動するよう促している。

 このシステム、実はNTTデータのASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービス「クリエイティブヘルス三健人」を利用している。歩数計の計測データをオンラインで管理するサービスで、個人だけでなく、社員に運動を促したいと考える企業にも提供している。ポイントが貯まれば商品券と交換できるなど、少しでも歩こうと思わせる工夫も取り入れた。

対象者5000万人超の市場が出現

 このASPサービスに、最近になって企業からの引き合いが急増している。理由は、「高齢者の医療の確保に関する法律」が今年4月に施行され、40歳以上の被保険者を対象に特定健康診査(特定検診)が義務付けられるからだ。

 特定検診とは、被保険者の健康を定期的に診断して推移を見守ることでメタボリック(内臓脂肪)症候群の該当者や予備群を見付け、必要に応じて健康指導をすること。高血圧や糖尿病といった生活習慣病の発症や重症化を未然に防ぎ、国民全体の医療費を減らすのが狙いだ。

 企業や団体などの健康保険組合は、これまでも健康診断を実施し、必要に応じて精密検査の受診などを促してきた。しかし、通院や受診の判断は社員らに任せきりで、メタボリック症候群については周知徹底さえ不十分なケースが多かった。それが4月からは、一人ひとりの診断結果を管理・追跡し、健康指導までするよう求められる。

 対象となる40歳以上の被保険者は、5000万人以上とされる。矢野経済研究所の調べによると、メタボリック対策の市場規模は診断・健診だけでも 2765億円、すべて合わせると7兆円を超える。この新市場には医療・製薬業界はもちろんのこと、食品や流通、スポーツクラブなどが注目。ITサービス業界も健康管理にITを活用してもらおうと、ASP/SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やパッケージソフトを売り込む動きが活発だ。医療機関だけでなく、メタボリック対策市場への参入を目指す企業まで顧客にできるため、潜在需要は大きい。



本記事は日経ソリューションビジネス2008年1月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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