カリフォルニア州バークリー発--Googleが提供している3次元表示が可能な地図表示ソフトウェア「Google Earth」を米国の複数の非営利団体が,森林伐採や大量虐殺といったさまざまな問題に対する世間の関心を高めるための新たなツールとして活用している。

 例えば,非営利団体Appalachian VoicesのエグゼクティブディレクターであるMary Ann Hitt氏によると,多くの草の根団体が,4州にまたがる,広大なアパラチア山脈が炭鉱会社の採掘によって破壊されてきた様子を示すためにGoogle Earthの3次元地図を活用しているという。炭鉱業界は,山頂除去と呼ばれるプロセスの中で,より早く,より低コストで石炭を掘り当てるために爆発物で山頂を吹き飛ばしているという。その結果,周辺は汚染物質や廃棄物で埋もれ,川は干上がり,空気中にはばい煙が残存していると同氏は指摘する。

 そこでAppalachian Voicesは,Googleの協力を得て,その周辺にある470カ所の山頂のない山々の仮想「慰霊碑」を設立した。具体的には,Google Earthの3次元地図上の各山の位置に半旗で印を付した上で,各場所に山頂除去プロセスに関する情報や案内を添付した。この地図レイヤは,Google Earthの「Featured Content」内で見ることができる。また,この地図レイヤには,アパラチア山脈の山頂除去前と除去後の航空写真,破壊の範囲を示すためのオーバーレイによる比較,さらに頂上除去の影響を受けた地域社会からの生の声や映像へのリンクも含まれている。

 Hitt氏は米国時間6月6日,当地で開催されている第5回International Symposium on Digital Earth(ISDE)の中で,「(Google Earthの3次元地図は)われわれの考えを革命的に変えた」と述べ,さらに次のように続けた。「従来,マスコミや政府関係者にしか(山脈の現状を)見てもらえなかったが,(3次元地図により)他の多くの人々にも見てもらえるようになった。今やわれわれは,多くの人に向かって情報の発信が可能だ」

 Hitt氏は,Googleが発表したGoogle Earthをダウンロードし,インストールしたユーザーの人数にも触れた。Google Earthは2005年に導入されて以来,ソフトウェア開発者から政府関係者まで,さまざまな人々の関心を集めてきた。GoogleのGoogle Earth担当最高技術責任者(CTO)であるMichael Jones氏は今週になってから,ISDEでBush大統領の次の発言を引用した。「私はGoogle(の地図)上で牧場を見るのが何となく好きだ。それを見ていると,たまに牧場に行きたくなる」

 Googleや同社のライバルであるMicrosoftが提供するマッピングツールの人気上昇に伴い,多くの非営利組織やそのほかの団体が,さまざまな社会問題の原因について人々に視覚的に訴えるため,地図サービス向けの「レイヤ」開発に乗り出している。例えば,米環境保護庁は2007年になってから,Google Earthを使って有害な荒地の地図を作成する計画を発表した。

 すでに米国の州,国,地方の政府機関は,静的あるいは動的な地図作成ツールをさまざまな用途に活用している。その例としては,交通,犯罪,天気のモデル化や,過去の出来事をモデル化し災害対策のための予測を立てるなどが挙げられる。Googleの地図開発グループ所属のエンジニアであるRebecca Moore氏は,有給の自由時間に非営利団体に協力している。同氏によると,数年以内に複数の市民活動団体からより多くの地理画像が公開されるという。

 Moore氏は,ISDEで開かれたGoogleによる公開討論会で,「すでにいくつかの環境団体が(Google Earthを)活用しているが(中略)向こう1,2年以内に,気候変動についての知識が得られる多くの興味深い地理画像がGoogle Earthに追加される」と語った。

 実は,Moore氏本人もサンタクルーズ山脈における地域社会活動の計画策定にGoogle Earthを活用した。同山脈では,ある木材会社が木材の収穫を計画していた。同社は2005年9月,カリフォルニア州サンタクルーズに住む数千人の住人に,計画の通知と地図が入った手紙を送付した。しかし,その手紙には計画の詳細についてはほとんど記載されていなかった。

 そこでMoore氏は,Google Earth内に仮想レイヤを作成し,同地域の3次元地図を制作した。その結果,同地域には数千エーカーの森林地帯が広がっていることが分かった。Moore氏と住民で構成されるコミュニティーは,その地図に写真や時間の経過とともに変化するアニメーションを追加し,同計画によって近隣の学校がどれだけ騒音や汚染の被害を被るかが一目で分かる画像を公開した。それが,カリフォルニア州議会議員であるIra Rushkin氏の目にとまった。Rushkin氏は計画が子供たちに与える影響を懸念し,同計画に反対の意見を表明した。その結果,その土地を所有する水道会社は同計画から手を引いた。

 Google Earthでは「Global Awareness」レイヤの一部として,Jane Goodall氏のブログから引用したチンパンジーの話が掲載された地図が公開されている。Goodall氏は,タンザニアのゴンベ渓流国立公園内に生息するチンパンジーの研究で知られる人類学者だ。その地図には,2002年に同公園から姿を消した「ベートーベン」という名のチンパンジーの話が掲載されている。

この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ

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