プロセッサは長年高速化を重ね,多くのデスクトップソフトウェアにおいてパフォーマンスの向上が容易になった現在,ただ乗りの時代は終わったというのがIntelの主張である。

 IntelやAdvanced Micro Devices(AMD)などのプロセッサメーカーは,高速な演算装置(コア)を1基だけ備えた製品ではなく,複数の演算装置を備えた製品を提供するようになってきている。問題は,現在ほとんどのソフトウェアが,その利点を使いこなせるようにできていないということである。

 IntelのフェローShekhar Borkar氏は,プロセッサは18カ月から2年ごとにパフォーマンスが約2倍になるという考えを引き合いにして「ソフトウェアもMooreの法則に従い始めるときだ。対応する並列処理の量を2年ごとに2倍にしなくてはならない」と述べた。

 しかしこれは,ソフトウェア業界にとっては困難な挑戦である。それぞれのマシンが複数の負荷を同時に処理しているサーバサイドでは,対応状況が比較的よい。デスクトップアプリケーションがスーパーコンピュータやサーバでの処理方法をある程度真似ることは可能だ。しかし,Mooreの法則とは別に,Amdahlの法則というものがある。プログラムにおける並列処理には限界があり,逐次的にしか処理できないタスクがあるという考えである。

 Borkar氏が米国時間5月25日に一部の記者へ明かしたところによると,別の意見もあるという。アプリケーションに複数の異なるタスクを扱わせることや,システムに複数のアプリケーションを実行させることはできる。プログラムとシステムに,ユーザーがどのタスクを望んでいるのか推測させて,その用途にプロセッサのパフォーマンスを振り分けさせることもできる。しかし,ソフトウェア業界に取り組みを続けさせることは,なかなか上手くいかない。

 Microsoftが最近,同様の警告を発している。最高研究責任者(CRO)兼最高戦略責任者(CSO)Craig Mundie氏は,ロサンゼルスで先週開催されたWindows Hardware Engineering Conferenceで,問題解決に着手するようソフトウェア業界に呼びかけた。

 同氏は当地でのインタビューに対し,「パーソナルコンピュータにおけるプログラミングの生態系全体を,ある水準に導くにはどうすべきかを考える,という問題に今直面している。その水準とは,高い集約度で分散処理をしつつ,演算能力を使い切ることが可能な大規模アプリケーションを確実に構築可能にする水準だ。おそらくこれは,ここ20年から30年の間に我われが取り組んできた問題の中で,もっとも混乱を生みやすいものだろう」と述べた。

 MicrosoftのTy Carlson氏は先週に入り,次期Windowsについて,PCで今後標準的になるプロセッサコアの数に対応できるよう,「根本的に異なったもの」になる必要があると述べていた。同氏によると,Vistaは複数のスレッドを扱えるよう設計されているが,16以上のプロセッサに今すぐ対応できるというわけではないという。そして,アプリケーション業界はそれよりはるかに遅れている。

 Carlson氏は「ここ10年から15年で,我々は信じられないほどの演算能力を手に入れつつある。問題は,その生態系を育て,プログラムの書き方がわかるようにするということだ」と述べた。

 しかしIntelのBorkar氏によると,Microsoftなどの大手ソフトウェアメーカーは,この変化に気付いていながら対応の速やかさに欠けているという。

 同氏はディスカッション後のインタビューで「ソフトウェアメーカーは多くを語るが,行動はあまり起こさない。大企業(のMicrosoft)だから,動きの鈍いところがある」と語った。

 同氏によると,やり方を一新しなければかつてのようなパフォーマンス向上が得られないという事実に,企業はすばやく適応する必要があるという。

 同氏は,プロセッサコアの処理速度が上昇していないことについて「物理的な限界だ」と述べた。

 懸念をよそに同氏は,ソフトウェア業界が問題に取り組むことは可能だと確信していると述べた。1つには,競争が革新に拍車をかけるということがある。

 同氏は「この問題に取り組まないソフトウェア(企業)には,必ずそれを好機と見なすライバルが現れる」と述べた。

 同氏は,ゲームなど,ソフトウェアが進歩している分野もあると指摘した。また,他の分野でも実りがある可能性があるという。特に,特定タスク向けの専用言語がある分野がそうである。たとえばネットワークタスクは,専用のネットワークコードで実行される場合がある。

 Intelは,マルチコアのパフォーマンスを引き出すため,自社製ソフトウェアのリリースも増加させている。プログラミングの教え方を,より並列化を重視したものに変えるため,大学と協力する取り組みも行っている。これにより,次世代の開発者は並列化技術を常に意識するようになるだろう。

 Borkar氏は「まずは大学からだ。我々のような老犬には,新しい芸を仕込むことはできない」と述べた。

この記事は海外CNET Networks発のニュースをシーネットネットワークスジャパン編集部が日本向けに編集したものです。 海外CNET Networksの記事へ