世界のサーバー業界が注視する「新UNIXサーバーシリーズ」が、日本時間で4月18日に日米欧同時に発表される。これは2006年の出荷シェア(米IDC調べ)が10.8%の米サン・マイクロシステムズと同5.1%の富士通が3年かけて開発した、開発コード名「APL(アドバンスド・プロダクト・ライン)」と呼ばれていたもの。ローエンド、ミッドレンジ、ハイエンドのフルラインから成り、サンの「Sun Fire」や富士通と独富士通シーメンスの「PRIMEPOWER」に代わる新シリーズ。3社のロゴを別個に付けて販売する。開発はローエンドがサンで、ミッドレンジはサンと富士通の共同開発。ハイエンドは富士通が担当した。

 ローエンドは、サンが開発した8コア、4スレッドのマルチコアプロセッサ「UltraSPARC T1(開発コード名Niagara)」を搭載したSun Fire T2000を新シリーズ名に変更したものになる。UltraSPARC T1は年末までに8コア、8スレッドのNiagara 2に切り替わる見込みだ。製造もサンが行う。

 ミッドレンジとハイエンドは、富士通が新開発した「SPARC64 !)プロセッサ(同Olympus)」と、同じく富士通のチップセットを用いる。Olympusプロセッサはデュアルコアでコア当たり2スレッド。従来のシングルコアSPARC64 Vの4~5倍の性能を発揮する。プロセッサとチップセットを富士通が製造し、サーバー本体は富士通とサンがそれぞれ組み立てる。

 年内にPower6搭載機を出す米IBMの先手を奪う形で発売するAPLだが、その前途は平坦ではなさそうだ。提携から3年の間にサーバーを巡る環境が大きく変わったからだ。特に富士通が担当したミッドレンジやハイエンドに風当たりが厳しい。

 例えばプロセッサのマルチコア化の波は、高性能かつ低価格のサーバー需要を喚起した。このため、IDCによればサーバー出荷金額で過半数を占める1台50万ドル以上のハイエンドサーバーが、09年には40%弱に下降する見込み。一方でローエンド(2万5000ドル未満)はハイエンドとシェアで拮抗するまで伸びるという。

 そこでサンは富士通と提携する直前、米AMDと提携し低価格Solarisサーバー「Sun Fire x64」を出荷。これがサン回復の起爆剤となった。返す刀でサンは、今年1月には米インテルと提携。Solaris搭載のXeonサーバーを6月から出荷する。またSolarisはオープンソース市場でPowerにも対応可能となった。

 市場の流れに目ざといサンに対し、富士通の反応はいかにも鈍い。「こんな売れないサーバーは初めてだ」と富士通幹部が嘆いたItanium2搭載の基幹サーバー「PRIMEQUEST」でつまずいた同社は今年2月、ようやくXeonサーバー専門の「IAシステム事業本部」を立ち上げ、「PRIMERGY」の大強化に乗り出す。IBMからOEM(相手先ブランドによる生産)してきたXeonを8個以上搭載するサーバーも、自社開発に切り替える方針だ。

 業績が戻ってきたサンは、APLにも横やりを入れる。当初APLはサンのUltraSPARC IV搭載サーバーの後継とされ、これが富士通を提携に走らせた理由だった。欧米での置き換えボリューム需要が期待できるからだ。しかしサンはUltraSPARC IV+を開発し、提携時に約束したPRIMEPOWERの販売を拒み、年内にはIV+の性能を20%強化する。さらにAPLの発売を1年遅らせ、08年後半と見られる自社製「ROCK」(コード名)チップ搭載機に大量の設置ベースを温存することを狙う。サン日本法人の幹部はAPLを「IBMなど他社サーバーの顧客を奪うためのもの」と位置付ける。APLに旧OSであるSolaris8の搭載を拒否された富士通が、サンのバリアーを越えてサンの顧客に自社ブランドとはいえ“同じ信頼性”のサーバーを販売することは険しい。

 PRIMEQUESTとAPLの戦略上の誤算。これが富士通社内で一挙に高まった「サーバー戦略見直し論」である。富士通の選択次第で、プロセッサを作る日本メーカーがいなくなるかもしれない。