内部統制関連のコンサルティングサービスは、人手が不足するほどの売り手市場。競合が自社の都合を押し付ける中、日立システムアンドサービスだけがシチズン時計の声に耳を傾けた。

=文中敬称略


 「今から1週間後、コンサルタントSEに会わせてほしい」。シチズン時計の情報システム部副部長システムコンサルタントの堀義信(現在はシチズンホールディングスの監査室に所属)は、無理を承知で目の前の営業担当者に要請した。

 堀が急いでいたのは確か。しかし、日立システムアンドサービスの営業統括本部オープンソリューション営業部主任の中沢礼が、自分たちの都合にどこまで合わせてくれるのかを試す狙いもあった。

 シチズン時計が採用を検討していた内部統制関連のコンサルティングサービスは、どこもコンサルタント不足で空前の売り手市場だった。人が足りないのは日立システムにとっても同じ。それでも中沢は、社内の関係者を説得。初回の訪問から2週間後とやや遅れはしたが、堀の無理な要請に応えた。そして中沢が示した熱意こそが、受注を引き付ける原動力となった。2006年11月1日のことだ。

自社の都合が目立った競合他社

 シチズン時計が内部統制のコンサルティングサービスを検討したきっかけは、「限られた時間の中で内部統制を整備するには、ポイントを押さえた経験豊富な外部のアドバイザーが必要」と考えたからだ。シチズン時計は日立システムの中沢が初訪問した11月1日に、日本版SOX法(J-SOX法)の施行に備えた内部統制整備のプロジェクトを立ち上げた。実は、これに間に合うようにと、3カ月前の8月の盆休みを過ぎたころからコンサルティングサービスの比較検討を進めていた。

 ところが、いざ商談を始めてみると、どのソリューションプロバイダも自社の都合を最優先してきた。例えば最初に声を掛けたA社は、計画策定は終えているので文書化作業から取り掛かりたいと考えていたシチズン時計に対し、「まずは計画策定の部分から進めたい」と提案してきた。

 次に声を掛けたB社は、コンサルタントSEの能力の高さがうかがえるプレゼンテーションを実施して見せた。ところがB社の営業担当者は、「今すぐ発注してもらわないと人を手配できない」と決断を迫ってきたのだ。

 3社目は大手ITベンダーのC社。ここの営業担当者は当初から「コンサルタントSEは2月にならなければ手配できない」と宣言。さらに、この営業担当者は「2月までは文書化支援ソフトのトレーニングサービスを提供しますから」と、文書化支援ソフトを先行導入するように提案してきた。

 この時、既に10月下旬。プロジェクトの発足は目前だ。困り果てた堀がネットで見付けたのが日立システムだった。



本記事は日経ソリューションビジネス2007年4月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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