「BRICsの驚異」「三角合併」「落ち目の就職ランキング」。この三大話がITサービス業界に暗雲をもたらす。サービス価値で値付けする「バリュープライシング」で起死回生のホームランを狙う業界に対し、ユーザー企業のシステム部門が立ちはだかる。
ITサービス産業界は今、「人月ベースの価格」から、サービス価値に基づいて価格を設定する「バリュープライシング」への移行を模索中だ。 IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)の椎木茂社長は、「2010年までには、ITサービス産業の売り上げの30%をバリュープライシングで占めるようになる」と希望を込めて観測する。
ITサービス業界は、バリュープライシングが利益を引き出せる「打ち出の小槌」になる、と皮算用をしているわけではない。河本公文サービス戦略研究所社長はむしろ、バリュープライシングの究極と目される「成功報酬型」はハイリスクなので、「ITサービス業界は安易に漕ぎ出すべきではない」と警鐘を鳴らす。そして、次のようにアドバイスする。「今のSIプロジェクトの中で、顧客とソリューションプロバイダの両者が価値を認め合う共通の価格ルールを確立することが先決である」。
NECの幸田好和製造・装置ソリューション事業本部長もその考え方に同意する。「バリュープライシングが利益を生むと考えたら対応を誤る。バリュープライシングは、システムの利用が現状の開発型から、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やユーティリティコンピューティングなど、使用量ベースに基づくサービス型へ移行する過程での話である」。使用量や取引量に応じた価格(料金)は、まさにバリュープライシングの典型モデルだ。例えば、米メリルリンチでSaaSによるCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)システムを2万5000人のエンドユーザーが使い始めたことなど、巨大な利用例がいくつも出てきた。米国は既にバリュープライシングに踏み出している。
日本はどうか。産業構造審議会の緊急提言「ソフトウエア新時代」(1992年)の中で、「品質やサービス価値に基づく価格設定が望ましい」とされながら既に15年。いまだにそのような状況は実現されていない。業界のリーダー格である富士通が、社員の能力という価値評価によって待遇に差を付け始めたのは緊急提言の翌年。今では、ITサービス業界やユーザー企業の間で普通のことになっている。にもかかわらず、ユーザー企業の情報システム部門とITサービス業界の間では、人月ベースによる「ソフトウエア石器時代」が連綿と続いている。ITサービス業界はそこからの脱却を目指し、もがき苦しんでいる。
本記事は日経ソリューションビジネス2007年3月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
同誌ホームページには,主要記事の概要や最新号およびバックナンバーの目次などを掲載しておりますので,どうぞご利用ください。
・日経ソリューションビジネス・ホームページ