はるおが帰った。

 はるおくんはブラジルサンパウロ州ミランドポリス市からジュニア親善大使としてやってきた高校2年生だ。我が家に3泊ホームスティした。はるおくんは日系四世で日本語学校に通っている。礼儀正しく,小学2年の娘ほのちゃんの話にも,きちんと返事をしてくれるやさしい子だ。ちょっと遠慮しすぎで,外食に連れて行くと「やすいもの」でいいと言うので,わからなかったふりをした。朝食にミルクとジュースをどっちがいい?とたずねると「みず」と答える。朝はミルクだと牛乳を注いだ。私の母の作ったとうふとしいたけの煮物をたくさん食べてくれた。

 彼は国際交流をちゃんとわかっていて,積極的に話かけてくれた。ブラジルでは高校生は朝早く学校へ行き,昼まで勉強をして,午後は働くそうだ。趣味は川での魚釣りだ。えさは牛の肉だと言う。ピラニア釣るのか?と聞くと「そうだ」と答える。本当なのか,かつがれたのかは定かではない。

 夕方,市役所にはるおくんを迎えにいくと「はたらいた?たくさん,はたらいた?」と聞いてくる。最初は「はたいた?」と聞こえたので聞きなおすと「トラバイユ」とポルトガル語で言い直した。ポルトガル語でもフランス語でも働くは「トラバイユ」とか「トラバイエ」とか言う。トラベル(旅行)の語源である。ミランドポリス市から高岡までのトラベルは重労働だ。サンパウロ空港までバスで8時間程度ゆられ,飛行機はアメリカ経由でもヨーロッパ経由でも丸一日掛かる。成田に着いても高岡までは何本か電車を乗り継がなければならない。

 はるおくんは100円均一(100均)で度の違う老眼鏡を2本と目に良いブルベリーのサプリメントを買った。私より2,3歳年上のお父さんへのおみやげだ。「たくさん,はたらいた?つかれた?」と私を気遣うはるおくんに,日経ソフトウエア誌面の連載が終わり,仕事が減った私は「すこーし」と正直に答えた。きっと,はるおくんはブラジルで働いているお父さんのことを思いやっているのだろうなとジーンときた。

 はるおくんは線香やおりんも100均で買ってきた。何でも100均で売っていることに感心していたら「南妙法蓮華経,南妙法蓮華経」とおどけてみせる。16歳のはるおくんは日本人より信心深い。

 はるおくんにポルトガル語を教えてもらった。おかあさんは「マイ」で,おばあちゃんは「アゴ」,兄は「イルマ」で妹も「イルマ」,発音が違うのだが真似できない。

 外国語の勉強はその言葉を母国語とする人と話をすることだと改めて気付かせてくれた。そういえば,大学のゼミの先生は「日仏会館でフランス人と話してこい」とよく言っていた。従っていれば,別の人生があったかもしれない。

 いやいや,今の人生がいやなわけではない。

 7月15日 ITセンターで小学生を相手にロボット講習会を行う。現在,私の所属するITネットワークアシストたかおか(NAT)では,高岡市の小学校と県のITセンターでロボット講習会を実施している。この日は8月6日に予定している交流会で行う競技の説明とロボットの作成を進めた。今日はひさしぶりにこうしろうもサポータとして参加した。小学5年生のこうしろうと始めたマインドストームであるが,当人はもう高校3年だ。

 ペットボトルを倒しながら進み,光センサーで黒い線を読み取ると一旦停止し,ピンポン玉をポンと押してゴールに入れるという競技である。ペットボトルを倒した数,うまくゴールにピンポン玉が入ったか,時間はどれだけかかったかを競い合う。単純な競技だが,シーケンス制御とフィードバック制御のプログラミングを勉強してきた成果を問う。ペットボトルがさかさまになっているのは,そうしないとなかなか倒れてくれないからだ。

 ITセンターで講習を受けている児童は私の自宅からは車で30分以上かかる富山市の小学校の児童達だ。ロボット講習会が終わってしまえば,もう会うことはないかもしれない。落ち着いてじっくり考える子,サッとセンスの良さを見せる子,毎回笑わせて盛り上げてくれた子。一期一会という意味では,ブラジルも県内もあまり変わりはないかもしれない。