8月1日 日経ソフトウエア誌「育代が行くよ!」の吉田育代さんが我が家へやってきた。本当に着物でやってきた。着物よきもので,オラクルマスターの吉田さんはITの開発現場や教育現場に着物で取材に訪れる。柳田編集長もやってきた。こちらはTシャッツで,リゾート地を訪れたようなさわやかな笑顔でやってきた。

 こうしろう一家は案の定,この日も朝からそわそわしていた。いつもより少し早めに起きて,台所へ行くと,食卓には見慣れぬ皿やコップがならんでおり,ふきんが掛かっている。母(こうしろうの祖母,ばあちゃん)の仕業である。午後からの来客の準備を朝の涼しいうちに済ませたばあちゃんは既に臨戦体制なのである。100話にならんとするこの日記に,こうしろうの祖母が登場するのは今回が始めてである。別に意識してそうしていた訳でなく,単に話に絡めにくかっただけである。こうしろうが基本情報技術者試験に合格した時も,今回,吉田さんが来ることに決まった時も,ばあさんは多いに喜んだ。誰かに自慢したくて,仕方がないのだが,自分が何のことだかよくわからないものは自慢するのも難しく,はがやしがっている(富山弁解説:はがやしい はがゆいの意)。

 なんで,吉田さんは富山くんだりまできたったがか(富山弁解説:どうして,吉田さんは富山なんて遠いところまで来られたのか)? 吉田育代さんが現在日経ソフトウエア誌に連載中の「育代が行くよ!2 学校編」の取材に来られたのである。学校編では,プログラミング教育の現場である高専や高校が取材の対象になっているようだ。当然,我が家は学校ではなく,決してアカデミックな場ではない。LEGO MINDSTORMSでプログラミングを始めるようになったきっかけやNQC(Not Quite C)言語のこと,基本情報技術者試験のことなどについて取材を受けるが,こうしろうと私は「これは遊びだ」とか「楽しいから」などと能天気なことしか言わない。



 そんな中,柳田さんはレゴの部品をいじり,吉田さんはどんなに覗き込んでも読めない吉田式速記でメモを取る。『こんなんで記事になるのかなあ,もっと気の利いたこと言わなくっちゃ』と思うのだが,頭の中が白くなって(外側にも白いもの増えてきたこの頃である),何も出てこない。プログラミングを一生懸命教えているのでもなければ,将来こんな職業について欲しいとか考えている訳でもない。「考えて,何かを作り上げるのは楽しいだろう。一緒に何かやろうや」というのが中学生の息子に対する私のスタンスである。こうしろうも勉強をしているというよりも,知らないことを知るのが楽しいという様子だ。取材が終わり,柳田編集長のおごりでうまいものを食った後,マクドナルドでアイスコーヒーを飲みながらこうしろうに今日の感想を聞いてみた。「吉田さんと柳田さんと話ができて,楽しかった。」お話好きなのである。

 でも,この日一番エンジョイしていたのは,育代さんにいきなり旧知の仲のように「ほのちゃーん」と呼ばれ,無制限一本勝負で遊んでもらっていたほの(3歳)であった。

 さて,富山にはうまいものがある。水,空気,魚(氷見のブリやホタルイカは全国区である),そして米(コシヒカリは新潟魚沼産が有名だが,富山生まれである)であるが,こうして並べてみると富山のうまいものは,手を掛けたものは少なく,素材の良さで勝負!というものが多い。うまい素材に手間を掛ければ,もっとうまいものが生まれそうなものだが『魚は刺身が一番,白い米をそのまま食べるのが一番』という風潮がある。これもひとつの文化なのかもしれないが,今回は柳田さんと吉田さんに手間を掛けたうまいものを教えてもらった。

 (ここからは『とんねるずの・・・』でゲストが持ってきたお土産を披露するような展開になる。)
まずは,柳田編集長からいただいた芭蕉堂(www.bashoudo.com)の笑来美(わらび)餅。わたしゃ,わらび餅なんて,うまいもんじゃないと思っていた。こうしろうも実は和菓子が苦手。冷蔵庫で適温に冷えるのを今か今かと待ちわびていたのは,甘いもの好きのかずだけであった。



ふたを開く。黒い点々が見える。「これ,かびじゃないの」と古典的な突っ込みを入れる。極上丹波黒豆を皮のまま,きな粉にしてあるらしい。とりあえず皆,「味見,味見」という程度の積極性で一つ口に入れる。「うまい。」突然,皆の目つきが変わり,爪楊枝で餅を口に運ぶ回転数はレッドゾーンに突入,あっという間に食べ尽くしてしまった。かずはすかさず,牛乳をコップに汲んできて,残ったきな粉を溶かし入れ,したり顔でゴクゴクとやる。



 Since 1868の素朴なお菓子は「A SWEET TASTING SOFT SENSATION !」の売り文句で海外をも視野に入れている。芭蕉堂さん恐れ入りました。

 お次は,吉田育代さんにいただいた清水の白桃ゼリー,たねや(www.taneya.co.jp)謹製である。



 わたしゃゼリーというやつもなめていた。合成甘味料やら,なんやらで風味をつけてあるものを食べ過ぎてしまったようだ。煙草を止めて,8ヶ月,ニコチンガムも止めて2ヶ月になった私の舌は,生え変わったかのように敏感になり,水や米の甘さを感じ,わさびや唐辛子の辛さに子供のようにのたうちまわり,化学合成された味を拒否する。

 スプーンで少しだけすくい口に運ぶ。桃が濃い。「これ,すごいな。わらっちゃうな。」とそこからは数口で食べてしまい「もう,ひとつ食べたーい」と子供と一緒に駄々をこねた。ちなみに,たねやのパンフレットは再生紙で作成されていた。

 芭蕉堂,たねやときちんとしたお菓子を作っている企業は,独自ドメインを取得し,積極的に情報を発信している。外国人も当然のごとくターゲットとし,環境問題にも気を配っている。ちゃんと生きて行くとはこういうことかとお菓子に向かって頭を下げたくなった。

 最後に,柳田編集長の一言が頭に残った。「こうしろう君は情報量が多いんですね。」松永真理さん著の『iモード事件』の話題で,吉田さんと盛り上がるこうしろうに「あっ,俺それ読んでない」と悔しがり,秋葉原の最近の動向で柳田さんと話し込む息子に「なんで,そんなこと知ってるの」と半ばあきれ,「こいつのことは自分が一番理解している」と思っていた愚かな父は「どんどん俺の知らない所へ進んで行っているのだな」と親離れ,子離れを意識した。そんな夏の出来事だった。