2月16日 この日,私はある町の工場協会の研修会で『データベース入門』と銘打ったセミナーの講師を務めていた。冒頭で参加者に尋ねてみた。「Excelなどの表計算ソフトを使ったことがある方は?」過半数の人が手を上げた。「では,マイクロソフトAccessなどのデータベースソフトを使ったことがある方は?」手を上げる人はいなかった。

 NECのPC-98シリーズが世に出てビジネスにパソコンが使われるようになった頃から(20年程前のことか),ワープロソフト,表計算ソフト,データベースソフトがパソコン利用の三種の神器とよばれていたが,ワープロや表計算ソフトに比べてデータベースソフトはもう一つ普及していない。ワープロでは,一太郎やワードを多くのパソコンユーザーが利用し,表計算ソフトではロータス1-2-3やExcelが人気を集めた。データベースソフトでは,アスキーのカード型データベースソフト「The Card」や管理工研の桐が一時健闘を見せたが,みんなが使うという状況には至らなかった。

 データベースソフトがいまひとつ普及しない理由の1つは『まず設計ありき』という点にあると思う。どんな情報をデータベースに入れるか,実際にデータを格納する場所であるテーブルの種類と内容を考えなければならない。このハードルを越えないことには,データベースソフトの恩恵にあずかることはできない。

 3時間の中で,データベースの用語,考え方から講習を始め,実際に参加者全員にAccessを操作してテーブル,テーブルにデータを入力するためのフォーム,そしてレポートを作成してもらった。参加者からは疲労感が漂っていた。本来なら3,4日かけてやるべき内容を大急ぎで半日で片付けたような感じだ。

 協会や組合などの団体に対する講習会というのは難しいものである。参加者のパソコンの習熟度にバラツキがあり,参加者全員がデータベースを理解したいという意欲に溢れているわけでもない。中には義理で参加されている方もいる。内容としては「データベースとは何か」とか「テーブルは行(レコード)と列(フィールド)で構成されており…」からはじめ,1時間も話を聞いていると眠たくなっちゃうので,しばらくして実習に移る。講師の操作をプロジェクタでスクリーンに投影し,データベースの作成から操作を実行していく。補助講師が後ろからサポートを行うことも重要だ。「やったら,できた。これなら自分にも使えそうだ」と実感してもらえればメデタシ,メデタシである。

 今回の参加者は皆さん,粘り強くついてきてくれた。実は途中でシラーとした雰囲気になり,ちょっと苦しんだのだが,講師にも「何度も繰り返し説明を行う」,「雰囲気を読んで話し方を変える」,「説明の切り口を変える」などの粘り強い対応が必要なことを改めて認識した。感謝である。

 家に帰って思い出した。こうしろうが以前「僕SQLちゃ,全然知らんから基本情報処理技術者試験のために講義してくれ」と言っていたことを。SQLとは,もとはStructured Query Languageの略でデータベースを操作するプログラミング言語のことである。こちらは,やりやすい。本人が教えてくれと言っている上に,何がわかっていて,どこからわからないのかはっきりしている。

 「テーブルとは行と列により構成され…」とまた説明を開始した。



 SQLにはテーブルを作成したり削除したりするDDL文(データ定義文)と,レコードを取得したり更新したりするDML文(データ操作文)がある。

 「まずはSelect文やちゃ」とDML文から説明を始める。Select * From 売上は売上テーブルから全てのレコードとフィールドを取得する。Selectの後にフィールド名を指定するとそのフィールドのみを取得できる。例えば,Select 日付,合計金額 From 売上とすると全レコードの日付と合計金額が取得できる。



AccessのクエリにSQL文を打ち込んで確認する。



このように必要なフィールドのみを取得することを射影と言う。

 次に選択である。選択はWhere句を使って取得するレコードを絞り込む。



伝票番号が3より小さいレコードを選択している。



 昼間のセミナーでシラーとした雰囲気が流れたのは,この射影やら選択について説明している時であった。確かに基礎用語の説明というのは面白くない。相手が学生なら「試験に出ます」と言えば済むのだろうが…。

 こうしろうは私の説明に,たびたび「うっ,うん」と力強く相槌を打つ。そんなに力んで大丈夫だろうかと余計な心配をしてしまうのだが,一言も聞き漏らすまいという意思の表れなのだろう。

 この夜のSQL講義はSUM,AVG,MAX,MINなどの集計関数へと進んだ。こうしろうは早いものでもうすぐ中学2年生になる。SUMはサマリーのSUMで,MAXはマキシマムのMAXと説明すると「ふん,ふん」と納得してくれる。1年間,学校で英語教育を受けたお陰である。

 講師は1年分歳を取ったせいか,昼夜の2回の講義でクタクタになりビール1本で高いびきとなった。