『学力アップの心理学』という本を読んだ。斎藤 勇さんが編者で誠信書房から発刊されている本であるが、決して私はこの手の本を好んで読んでいるわけではない。浅田次郎で目頭を熱くしたり、小林よしのりで胸を熱くする方が好きだ。なぜこの本を読んだかというと、妻が図書館で借りてきたからだ。我が家では、妻が2週間に一度、私とこうしろう、かず、そして自分のために図書館で、それぞれ3,4冊の本を借りてきている。彼女は本の人なので(一応、図書館司書という、飯の種にはなりにくい資格を持っている)、私が読みたそうな本や私に読ませたい本を、みつくろって借りてきてくれる。その中に、この本があったのだ。「子供の学力アップに協力せよ」というメッセージなのか、それとも「私の学力の低下」を見透かした彼女が気をつかってくれたのか。最近私は、PHPという言語でWebとデータベースの連携を勉強中なのであるが、どうもなかなか、はかどらない。妻はそんなことを知るはずもないのだが・・・、「寝言でも言ったのだろうか。」

 他に読む本がなくなったので『学力アップの心理学』をパラパラとめくっていた。そこで見つけたのだ。MindStormsの中心的な開発者であるMITのセイモア・パパート博士の名前を。MindStormsのマニュアル本に記されているセイモア・パパート博士の言葉の日本語訳(『知識は理解の一部でしかありません。真の理解は実際に経験することなしには、ありえないのです。』)は第7話で紹介したが、今回あらためて、箱に書いてある原文を紹介したい。

 Knowledge is only part of understanding. Genuine understanding comes from hands-on experiece. Dr. Seymour Papert

いいでしょう。私はこの「hands-on experiece」ってとこが一番気に入っている。

 さて本の話に戻ろう。第74節に「自発的知識獲得を支援するコンピュータ」というタイトルでLOGOを紹介している。LOGOは教育用のコンピュータ言語である。もうお察しのことと思うが、LOGOの開発者もセイモア・パパート博士だったのだ。そしてパパートさんは『マインド・ストーム』という題名の本も書いているそうだ。私は心のなかで「おおっ!」と叫んでしまった。

 第74節の一部を抜粋してセイモア・パパート博士の紹介を少しさせていただきたい。


セイモア・パパート博士は数学者であり、教育哲学者である。彼の教育観はスイスの認知的発達心理学者で、認識論哲学者であるピアジェの影響を強く受け、教育を、教師から生徒への知識体系の伝達として捉えるのではなく、学習者自身が、自ら積極的に、自らを取り巻く環境に働きかけ、自発的に知識を獲得していくことが肝要であり、むしろそのような行動を支援する環境を設計・用意することが教育的営みとしてのもっとも重要な事項であると捉えている。



なんか難しい言葉で書いてあるが、その通りだ。知識だけならCD-ROMで十分だ。『自発的な知識の獲得』 ――人間と現在のコンピュータの境界はこのあたりにある。

 ところで、みなさんはLOGOというプログラミング言語のことを、おぼえてますか? 私も話に聞いただけで実際にさわったことはないのだが、かなり前に教育に携わる方の興味を強く惹いたことがあったと記憶している。LOGOでは亀(タートル)と呼ぶカーソルをプログラムで動かし、その軌跡で絵を書く。タートルに「前へ何歩進め」とか「右に何度曲がれ」というように命令を与えていくそうだ。まるでMindStormsと同じではないか。タートルを画面上で動かすLOGOがLEGO社と出会い、ブロックで作ったロボットを本当に動かすMindStorms Robotics Invention Systemへと進化したのである。「hands-on experiece」という、もうひとつの大きな魅力とともに。