9月18日午後9時「マインドストーム」の時間が始まった。9時から10時が我が家のマインドストーム・タイムに決まったようである。今日はトレーニングセンターに行く日だ。トレーニングセンターといっても体を鍛えにいくわけではない。Getting StratedでSetupを終了したら、Trainning Centerというメニューに進むのだ。こうしろうがCD-ROMをセットし、マインドストームのソフトウェア「Robotics Invention System」を起動する。「キィーン、ガシャーン、ゴゴゴー」とそれらしいサウンドが鳴り響く。トレーニングセンターでは、ムービー付きでロボットやプログラムの作成方法を教えてくれる。最初のロボット「Path Finder」をこうしろうとかずが作る。RCXの下にモーターを2個つけ直接タイヤをまわす単純なものである。RCXの出力ポートとモーターを短いケーブルで接続する。

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 さて9時は、ほのちゃん0歳10カ月の入浴タイムでもある。私の役目は、ほのちゃんを脱衣所に連行し、服とオムツをひっぺがし妻に手渡すことである。そして5分後にお迎えに行き、バスタオルで拭いて服を着せることだ。ほのちゃんを風呂に連れて行き戻ってくると、こうしろうがこのロボットのことを「ロバート、ロバート」と呼んでいる。「どうしてロバートなんだい?」と聞くと「だってこのソフト、ロバートっていうとる」と答えた。マインドストームは英語版であるから、当然トレーニングセンターの講師も英語でまくし立てる。“ロボット”というネイティブな発音が“ロバート”と聞こえたようだ。「What time is it now?」が「ほったいもいじるな」に聞こえた明治の人と同じである。こうしてめでたくロボット第一号機は“ロバート君”と命名された。

 プログラミングの説明が始まると、かずはどこかにいなくなってしまった。「なんとか理解してもらいたい」と思い、父親同時通訳モードに入る。モスクワと東京を通信衛星で結んだような間の抜けた同時通訳であるが、こうしろうは尊敬のまなざしで私を見ている(ような気がする)。

 「ちがうんだよ、こうちゃん。パパはそんなに英語がわかるわけじゃないんだよ。プログラミングの話だからなんとかわかるんだよ。これが、フラワーアレンジメントの話や政治の話だったらパパは全然わかんないんだよ…」なんて思っても、決して口には出さない。

 RCXのプログラムは、レゴのブロックを組んでいくようにブロックをつないで作成していく。「まてよ、こんな開発環境どこかでみたことあるぞ」。うーん、なかなか思い出さない。「そうだ。サン・マイクロシステムズのJavaStudioだ」。やはり、ここには近未来がある。ソフトウェアの進化を遅らせているのは、コードを書かないと気がすまない我々プログラマ自身かもしれない。

 最初に作るプログラムは、「モーターをONにして一秒間走らせ、そして止める」という簡単なものである。こうしろうが、トレーニングセンターの講師の指示に従ってプログラムブロックをつないでいく。

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 こんなプログラムができあがった。

On ABC:モーターと接続する出力ポートA,B,Cをオンにする

Wait 10:1秒間そのまま進む(RCXの時間の単位は10分の1秒)

Off:モーターを止める

 「はぁーん、長いこと走らせようと思ったらWait 10をいっぱい、つなげりゃいいがや」とこうしろうが言う。「おまえ、だらか」というセリフを寸前で飲み込む。(※富山弁解説 だら=“あほ”、もしくは、“ばか”の意味であるが、 富山県人が“だら”と言うときは、“ばか”にくらべて愛情がこもっていることが多い。『ちびまる子ちゃん』でおかあさんがまるちゃんに「おばか」と言うニュアンスに近い。)彼にとっては生まれて初めてのプログラミングである。優しくいこう。「そうじゃくてWait10の“10”って数字を変えられるはずだよ」 と猫なで声な父。「ふーん」 と現実感のない答え。まあいいや、先に進もう。

 作成したプログラムをRCXのメモリにダウンロードする。かずがRUNスイッチを押す。ロバート君はちょっと走り、止まる。それだけのことを、親子3人が固唾を飲んで見守っていた。

「こうしろう、どやマインドストーム?」

「最高!」