スマートフォンやセンサーなど多種多様なIT機器から収集できるデータをサーバーでリアルタイムに処理する先端技術。関連製品が登場し、ビジネスでの本格利用が始まろうとしている。


 多くの企業でビッグデータの活用に関心が集まっています。従来は、大量データをいったんコンピュータに保存してから分析するのが主流でしたが、今後は新たな手法が注目を集めそうです。

 それがストリームコンピューティングです。次から次へと流れてくる大量かつ多様なデータを、保存するのではなく、リアルタイムにサーバーで処理する技術を指します。米IBMや米オラクル、富士通といった大手ITベンダーが、この技術を組み込んだ専用ソフトを製品化しています。

効果:メモリーで超高速処理

 この専用ソフトには「取り込むデータの数値がある値を超えたら、すぐ担当者にメールで通知する」といった業務ルールを設定しておきます。するとソフトを搭載したサーバーがリアルタイムにデータをチェックして、ルール通りに処理。

 取り込むデータを「イベント」と呼び、複数種類のイベントを組み合わせたルール設定が可能です。こうしたことから、ストリームコンピューティングは複合イベント処理(Complex Event Processing)とも呼ばれています。

 ストリームコンピューティングによって、1秒間に数万~数百万件のデータを処理できるようになります。スマートフォンやタブレットに加え、今では自動車、道路、工場などにはセンサーが組み込まれています。

 これらのセンサーから送信される、位置情報や移動状況、温度などのデータを逐一収集することで、個人・企業に役立つ様々な即時サービスの実現が可能です。例えば、横浜中華街にいるスマートフォンの利用者に対して、「お薦めのレストラン情報や割引クーポンを送信する」といったきめ細かなサービスを提供できます。

 ストリームコンピューティングが注目されている背景には、安価なサーバーでも、メモリーだけで大量データを超高速処理できるようになったことが挙げられます。富士通研究所の坂本喜則 特任研究員は「容量当たりのメモリー価格はこの10年で30分の1になった」と説明します。

 現場への適用状況について、日本IBMでビッグデータ分野に詳しい技術者の土屋敦氏は、「実証実験は終わり、今年からビジネスへの本格導入が始まるだろう」と指摘します。

事例:ベテランの仕事を代行

 既に海外では活用事例が増えています。カナダのオンタリオ工科大学では、病院の新生児の異変監視システムでストリームコンピューティングを採用しました。医療機器からのデータをリアルタイムに監視することで、新生児の体調変化や異変を検知するなどベテランの医師や看護士の仕事を支援。さらにベテランでも気づかない院内でのウイルス感染の兆候を、発症の1日前に検知できるようになったという成果も出ています。

 ある映画会社では、テレビなどで流した広告の反応を見るのに適用しました。ツイッターなどSNS上での感想を、書き込んだ人の性別などの情報と一緒にリアルタイムに収集・分析。「ネガティブな反応を示す女性が多いから、広告を女性向きに改善する」といった手を迅速に打つなど、販促業務の強化に成功しています。企業競争力を高めるために、ストリームコンピューティングの導入は一考の価値があるでしょう。