中国からの事業撤退を検討する企業が直面する申請手続きや交渉作業に、助言をしたり作業を代行したりするビジネス。会計業務からシステムなどの資産保全まで幅広く対象にしている。


 尖閣諸島の問題に端を発する反日運動は、中国での事業展開がリスクと隣り合わせにあることを日本企業に改めて実感させました。暴動をきっかけに日本企業が中国から撤退する動きは目立っていないものの、リスクを軽減・分散する策を検討する必要性は高まりました。

 撤退する場合は工場やオフィスの設備やシステムを少しでも回収・処分できるかなど、資産保全もテーマになります。そうした細かい手続きまで事前に把握しておくべきでしょう。

 こうした状況の下、企業の中国進出を支援してきたコンサルティング会社が、今度は撤退や事業縮小に伴う複雑な処理の支援にも乗り出すようになってきました。これらの動きを総称して、中国撤退支援ビジネスと呼びます。事務処理の専門的な人材を抱える余裕がない中小企業などを中心に引き合いがあるようです。

問題:厳格な審査に戸惑い

 中国からの撤退や事業縮小を進める際には、大きく2つのハードルが立ちはだかります。1つは進出した地域の審査認可機関から許可を得ること。もう1つは、合弁相手など企業内部の関係者との交渉です。

 前者の認可機関は申請書類に不備がないかや過去数年にわたり税金をきちんと納めてきたか、撤退に際して従業員に適切な補償をしているかなどを厳格に審査します。税制優遇を受けていた場合は、優遇分を遡って返済するように命じられます。

 また、撤退に関する審査ルールはひと通り整っているものの、日本ほど細かく規定されてはいません。認可機関の担当者の解釈に左右される余地が大きいのが実態です。

 書類審査には時間がかかりがちです。中国撤退支援を手掛ける1社で、会計事務所系のコンサルティング会社であるマイツ(東京都港区)の張博華業務開発部東京中国室室長は「認可が下りるまでの期間は円滑に進んでも6カ月程度、申請書類に何らかの不備があれば9カ月から1年にもなる」と指摘します(取材時点)。その間の資金繰りを考えなくてはなりません。

 後者の企業内部の関係者との交渉も難航するのが常です。中国側の合弁パートナーが撤退を渋るケースが十分に考えられるからです。従業員が反対運動を起こす恐れもあります。こうなると撤退コストが膨らみます。

効果:撤退か残留かの判断にも

 中国撤退支援ビジネスを手掛ける会社は、過去の事例と照らし合わせながらアドバイスをしています。例えば、会計上の不備を起こしやすい点を手続きを始める前に指摘したり、合弁相手との交渉時に通訳を務めつつ、どんな提案をすれば合意を得られやすいかを助言したりします。撤退を検討する企業にとっては、一連の処理に伴う負担が和らぎます。

 もっとも、マイツ経営開発室の池田勲肖ひろたか氏は「撤退はあくまでも選択肢の1つ。むしろ社内改革を実行し、中国にとどまることを逆提案することも多い」と明かします。

 現状、撤退を検討している企業の理由の大半は、人件費増による採算の悪化です。しかし上昇した人件費を、業務プロセス改革や付加価値の高い商品への切り替えで吸収できることもあります。つまり、中国事業を冷静に見つめ直すために、中国撤退支援ビジネスを使うこともできそうです。