部下一人ひとりの業務スキルや仕事への意欲に応じて指示と支援を使い分け、目標達成や能力開発を促すリーダーシップのスタイル。


 米国の経営学者ケン・ブランチャード氏らは1970年代に「メンバーの業務スキルや意欲に応じて異なるリーダーシップを発揮する」というシチュエーショナル・リーダーシップ(SL)理論を打ちだしました。目標や役割を定め、具体的なやり方を指導する「指示的行動」と、メンバーの意見を傾聴して意思決定に参加させる「支援的行動」を組み合わせ、成果の創出と長期的な人材育成を目指します。

 SL理論に基づくリーダー育成プログラムの1つが「SL II」です。最近は日本でも派遣社員や外国人社員らメンバーの多様化に伴い、チームビルディングやグローバル化推進のインフラとしてSL IIを導入する企業が増えています。

 SL IIではリーダーに、メンバーの仕事レベルを4段階に分けることを推奨します。スキルは低いが意欲はある「D1」、スキルは中程度だが意欲が低い「D2」、スキルは高いが課題の難しさに応じて意欲が上下する「D3」、スキルと意欲がともに高い「D4」と定義します。

効果:“五月病”には指示も支援も厚く

 リーダーはメンバーのレベルに対し、指示と支援の比重を変えて接します。D1は新入社員やその仕事の初心者が該当します。ですから業務に関する具体的な指示を多く必要としますが、意欲は高いので支援的な行動はさほど必要ありません。これに対し、D2は仕事にある程度慣れた半面、意欲が低下する“五月病”の状態。「目標や作業指示を与えながら、適切な行動を褒めたり、提案を求めたりといった支援的な行動を厚くすべき」と、日本でSL IIの研修を行うピープルフォーカス・コンサルティング(PFC、東京都渋谷区)の鷲見健司ブランチャード事業部ディレクターは話します。D3に対しては支援的行動によって自信を持たせて自律を促し、D4には権限を委譲し、指示と支援を両方とも減らします。

 リーダーは個人の能力ではなく仕事ごとにレベルを定義します。例えば、システムエンジニアがプロジェクトマネジャーになった場合、システム開発の仕事ではD4でも、マネジメントにおいてはD1である可能性があります。リーダーは仕事の内容を見極めて対応する必要があるのです。

事例:グローバル共通言語に

 米コカ・コーラや米アメリカン・エキスプレスなどのグローバル企業がSL IIを導入し、シチュエーショナル・リーダーシップを実践しています。PFCの鷲見氏は「社内の共通言語にすると、グローバルなチーム運営がスムーズになる」と指摘します。部下と上司の面談の場でSL IIのフレームワークに沿って仕事のランクを共有し、上司が行うべき指示と支援を決めていくのです。