人件費の高騰などが顕在化する中国に生産拠点が集中するリスクを軽減するため、中国への投資は継続しつつも、並行して他国でも拠点を開設する動き。


 人件費の高騰や労働力不足、労働争議の激化など、沿海部を中心に中国で懸案事項が幾つも浮上しています。「世界の工場」の変質に日本の製造業はどう向き合っていくべきか、チャイナリスクへの対応が急務になりました。解決策の1つはASEAN諸国などに拠点を分散することです。チャイナ・プラスワンと呼ばれる動きで、ここ数年顕著になってきました。

 狙いは3つあります。1つめはより安価な労働力の確保です。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、北京の一般工職の月額賃金は364米ドル、実装などシステム開発の下流工程を請け負うオフショア開発が盛んな大連では同245ドルです(2011年の記事執筆時点)。これはベトナムの人件費などと比べると、既に数倍高い水準になっています。

 2つめがカントリーリスクの軽減です。事業継続性を考えると、中国以外に拠点を設けることは有力な策になり得ます。3つめは新市場への足場作りで、日本企業の関心は約6億人の人口を抱えるASEAN諸国に向き始めています。こうした新興市場への魅力もチャイナ・プラスワンの動きを後押ししています。

効果:市場の成長性に期待

 特に日本企業の進出機運が高いのは、中国に隣接したベトナムです。国際協力銀行の調査では、日本企業が将来的に進出を望む国として、ベトナムは中国とインドに次いで第3位に位置しています。安価な労働力に加えて、現地市場の成長性や優秀な人材の存在が高い評価を得ている理由です。

 ただし、中国以外に拠点を分散すれば、カントリーリスクは軽減できますが、新たな課題を抱え込むことにもなります。ベトナムなどASEAN諸国の大半は社会インフラがまだ、中国に比べて脆弱です。例えば慢性的な電力不足は進出企業が抱える大きな課題といえます。

 計画停電はベトナムでは日常茶飯事です。メーカーは生産設備を停止するため、停電の前後数時間を設備の点検や再稼働に費やさざるを得ないわけです。中国以外に拠点を設けるにしても、社会インフラの未整備にどう立ち向かうか、企業は難しい舵取りを迫られています。