インターネットは、プロバイダーに代表される大規模ネットワークが、階層状に相互接続することで形作られる。Tier1はその階層構造の一番上に位置する最大手のプロバイダーを指す。一般のユーザーが接続するプロバイダーを上位へとたどっていくと、やがてTier1につながる。

 現在のIPv4インターネットでは、全世界で10社前後のTier1が存在するといわれている。日本では、NTTコミュニケーションズがTier1に該当する。

 Tier1とは何かを理解するには、プロバイダーがインターネット上でパケットを届ける仕組みを把握するとよい。インターネット上のルーターは「経路情報」と呼ばれるデータを参照して、目的地までパケットを送り届ける。経路情報には、宛先IPアドレスに応じて、ルーターのどの接続ポートからパケットを送り出すべきかが記されている。インターネット全体にパケットを届けるためには、すべての宛先に至る経路情報が必要だ。このような全経路情報のまとまりを「フルルート」と呼ぶ。プロバイダーはユーザーのパケットをインターネット全体に届けるため、何らかの手段でフルルートを確保している。

 プロバイダー同士が経路情報を交換する形態には、「ピアリング」と「トランジット」がある。どちらを採るかは、プロバイダー同士の力関係によって決まる。

 ピアリングでは、プロバイダー同士が自分の経路情報だけを交換する。相互接続しているプロバイダーのユーザー間のトラフィックだけを運び、他のプロバイダーへのトラフィックは中継しない。サービス規模やトラフィック量、サービス提供エリアに大きな差がないプロバイダー同士が、無償でピアリングすることが多い。

 プロバイダー同士の規模などに差が大きい場合は、トランジットで下位のプロバイダーが上位のプロバイダーからフルルートの提供を受ける。下位プロバイダーは上位プロバイダーのネットワークを経由して、自分だけでは到達できないエリアにトラフィックを運んでもらう。そのため「運送料」として、トラフィックの流量などに応じた料金を上位プロバイダーに支払う。

 一般にプロバイダー関係者の間では、「トランジットを購入しなくても、ピアリングによって結果的にフルルートを集めることができるプロバイダーがTier1とされています」(NECビッグローブ 基盤システム本部 システム開発グループ マネージャーの南 雄一氏)。

 トランジットやピアリングの契約の詳細は公開されず、プロバイダー同士が個別に話し合って決めるのが一般的だ。接続条件は「例えば『多数のエンドユーザーを抱えている』『全世界の広い地域でサービスを提供している』など、様々な要素を勘案して決まります」(NTTコミュニケーションズ ネットワークサービス部 テクノロジー部門 担当課長の森信 拓氏)。

 現在では、ピアリングなどによって相互接続をする大規模ネットワークが、プロバイダー以外にも増えている。例えば米グーグルなどの有力コンテンツを持つクラウド事業者や、米アカマイ・テクノロジーズなどのコンテンツ・デリバリー・ネットワーク(CDN)事業者だ。こうした事業者の存在がインターネット上で大きくなるのと前後して、ピアリングの交渉時に「人気のあるコンテンツを持っているか」も有利に働くようになってきている。