環境管理会計の一種。製造段階で発生する原材料の廃棄物およびその処理コストを見える化する。原材料の無駄を減らす改善活動を推進するのに役立つ。


 製造現場にとって永遠の課題といえるのが、不良品の発生防止です。歩留まり率を生産のKPI(重要業績評価指標)に設定している現場も多いでしょう。

 ただし切断や切削といった作業を伴う加工工程では、歩留まり率ばかりにとらわれると、思わぬ見落としをしかねません。良品の生産時にも発生する端材や削りかすといった廃棄物の存在を忘れがちになります。廃棄物の総量が多ければ、その分だけ原材料を無駄にしているわけです。

 こうした原材料の無駄に着目する管理手法として、注目を集めているのがマテリアルフローコスト会計(MFCA)です。環境管理会計の一種で、製造段階で投入する原材料(マテリアル)と、原材料の加工に要する労務費などがどのようなフローで使われているのかを分析します。具体的には原材料のうち最終製品になったものを「正の製品」、不良品や端材などの廃棄物を「負の製品」ととらえ、各工程で発生した負の製品の量と金額を算出します。

効果:原材料の無駄に着目した新たな切り口

 MFCAを生産現場に適用する利点は、原材料の無駄に着目した現場改善活動を始めるきっかけができることです。1kg当たり10円の原材料を100kg投入し、600円の加工費をかけて80kgの製品が完成した場合を考えてみましょう。一般的な原価計算では、原材料費と加工費の合計である1600円が原価になります。ですがMFCAでは80kgの正の製品と20kgの負の製品を同時に生産したと見なし、加工費も正と負の製品でそれぞれ負担します。従って正の製品原価が1280円、負の製品原価が320円となります。つまり320円分の無駄の発生を把握できます。

 ただしMFCAを適用する際には、負の製品コストを算出するためのデータ収集にこだわりすぎないことが大事です。例えば、複数の工程にまたがるエネルギー費用を厳密に分配しようとすれば、それだけ高い労力が必要になります。MFCAを効果的に活用している企業は、TPM(全員参加の生産保全)といった別の改善活動で取得できるデータを流用し、データ収集の負荷を抑えています。

事例:生産現場に原材料コストを掲示

 錠前大手の美和ロック(東京都港区)は2010年4月から原材料の無駄を削減する活動を全社規模で展開しています。ある錠前製品の生産工程をMFCAで試算したところ、プレス加工用材料の4割近くが負の製品になっていたためです。三重県にある玉城工場の生産現場では原材料とそのコストを掲示して、無駄を出さないように作業者に意識づけています。