災害などに備え、原材料や部品の調達先を複数確保しておくこと。東日本大震災ではサプライチェーンの寸断で生産を停止する例が目立ち、改めて注目が集まっている。


 東日本大震災はサプライチェーンの寸断を引き起こし、生産に必要な原材料や部品の調達が困難になりました。影響は全世界に広がっており、直接被災していなくても生産活動に影響が出た企業が続出しています。そのため、調達先を複数確保しておく分散調達への関心が再び高まっています。調達先を別々の地域や国から複数選び、災害に強いサプライチェーンを作り直す動きが見られます。

 経済産業省が製造業などを対象に、震災直後の2011年4月8~15日に実施した緊急調査では、原材料などを平常時と同様に確保できる時期について「調達済み」と回答した企業は素材業種で8%、加工業種で6%にとどまっています。

 サプライチェーンの寸断は、何も東日本大震災が初めてではありません。2007年に発生した新潟県中越沖地震でも同様のトラブルは発生しています。同地震ではエンジン部品大手のリケンの工場が被災し、トヨタ自動車は1週間ほど操業を停止しました。特定の調達先から部品を大量購入してコストを引き下げてきたことが災害時には裏目に出ました。東日本大震災でも同じような事態が起きてしまったわけです。 

効果:BCPで商品供給を継続

 こうしたなか、既に一部の企業は全社を挙げて分散調達を推進し始めています。BCP(事業継続計画)に分散調達の項目を盛り込み、平常時に取引があるかどうかにかかわらず、緊急時には代替の調達先と素早く連絡が取り合える体制を敷いたり、代替部品でも品質面で問題がないかどうかを事前に確認したりするなどの備えをしています。

 複数の調達先を確保しておくと、東日本大震災のような大規模な災害が発生しても、商品供給が滞るといった最悪の事態を回避できる可能性は高まります。逆に長期間の生産停止は顧客からの信頼を失い、取引の打ち切りというリスクまで生みかねません。分散調達は一見非効率なようでいて、実は企業価値を高める手段とも考えられるのです。

事例:部品不足で運休

 西日本旅客鉄道(JR西日本)は今回の震災をきっかけに部品の分散調達を検討し始めています。震災で鉄道車両のモーター部品である「直流電動機ブラシ」を製造する日立化成工業の工場が被災。JR西日本の事業エリアは震源地から遠く離れているにもかかわらず、日立化成からの部品調達が滞ったことが原因で、2011年4月2日から一部の路線で特急や普通列車の運行本数を削減せざるを得なくなりました。そこで直流電動機ブラシを含め特定企業だけから調達していた部品を洗い出し、調達先の多様化などに着手しています。