文・松丸 剛(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 シニアコンサルタント)
自治体クラウドは、開発実証実験の段階を終え、全国の自治体への普及段階を迎えています。最近は総務省の取り組みだけでなく、各自治体や広域連合が独自に業務システムの共有を進める動きも出てきており、自治体クラウドの導入形態は多様化しています。
また、当初は情報システムの共同利用によるコスト削減効果に注目が集まっていましたが、2011年3月の東日本大震災以降は災害時の安全性や事業継続性の面でも注目を集めています。
自治体クラウドの概要、特徴とメリット、導入支援策、現在の導入状況と導入形態を整理したうえで、全国規模での普及における課題と今後の展望を示します。
センターにシステムを集約・共同化し、サービスとして利用
自治体クラウドとは、自治体が情報システムのハードウエア、ソフトウエア、データなどを自らの庁舎内で保有・管理するのではなく、庁外のデータセンターで保有・管理し、通信回線を経由して利用する形態です(図1)。
自治体クラウドの推進は、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が2009年7月に公表したIT政策「i-Japan戦略2015」のなかで次のように明記され、デジタル特区などによる3大重点プロジェクトの一つに位置付けられました。
有用な行政情報の電子化による利活用、公開等を推進するとともに、業務改革としての業務・システム最適化の徹底、行政情報システムの全体最適化をさらに推進するため、電子政府・電子自治体クラウドの構築等により、サーバを含む行政情報システムの共同利用や統合・集約化を進めること。
これを受けて、自治体を所管する総務省が推進主体となり、自治体クラウドの実現に向けて2009年度(平成21年度)から2年間、各自治体に呼び掛けて6道府県78市町村を対象に自治体クラウド開発実証事業を実施しました。
主な内容は、これまで共同化が十分に進展していなかった基幹系業務(住民情報関連、地方税務、国民健康保険などの法定事務など)の情報システムをクラウド化し、複数の自治体で情報システムを共同利用するというものでした。また同省は、大臣を本部長とする自治体クラウド推進本部を2010年7月に設置し、自治体業務へのクラウドの導入を総合的に推進しています。
自治体クラウドの特徴は、主に3つに整理できます。
(1)「情報システムの所有」ではなく「サービスの利用」
これまで自治体は情報システムを所有し、業務システムの開発やシステム運用を職員が自ら行っていました。一方自治体クラウドでは、自治体側で情報システムを所有しないで、ITベンダーが所有する情報システムのサービスを利用する形態となります。
(2)情報システムの集約化と共同化
原則として複数の自治体がデータセンターなどに基幹系業務システム機能などを集約し、情報システムを共同で利用します。
(3)データセンターの利用
原則として堅ろう性(耐震・免震構造など)が高く、高いセキュリティレベル(厳重な入退館管理、24時間365日有人監視など)が確保され、かつ自然災害に強い設備機能(無停電電源、非常用電源、火災感知・報知システムなど)を備えたデータセンターに情報システムを設置します。