文・木村 博史(NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 シニアコンサルタント)

 遠隔バックアップとは、災害などによってシステムやデータが損失した場合に備えて、重要なシステムやデータをあらかじめ遠隔地に複製しておく施策です。そのための技術や機能、提供サービスなどを指すこともあります。災害復旧(DR:Disaster Recovery)に関する施策の中でも、特に大地震などの広域災害によるデータ損失への対策として有効です。

 遠隔地の設備を活用したバックアップには相応のコストがかかることから、従来は一部の大企業や金融機関での検討・導入が中心でした。ところが近年、政府や自治体、中小企業を含めた民間企業の広くから注目を集めるようになりました。その背景として、近年のICT技術の発達による必要コストの低減や活用シーンの拡大に加えて、2011年3月11日に発生した東日本大震災による事業継続や災害対策への意識の高まりが挙げられます。

戸籍データのDR対策に採用

 遠隔バックアップは、重要データのDR対策として特にクローズアップされています。例えば法務省は、東日本大震災での教訓を受けて、「戸籍副本データ管理システム」に遠隔バックアップを取り入れる方針です。

 現在、戸籍データのバックアップは、各市区町村で戸籍データの副本を磁気テープに記録し、年に1回、近くの法務局に搬送するという方法をとっています。ところが東日本大震災では、大津波によって沿岸部の広域にわたって建物が損壊・浸水し、結果として宮城・岩手の4市町で戸籍データの正本が消失してしまいました。法務局に搬送した副本データについては間一髪で消失を免れましたが、前回の副本の作成以降に発生した変更データは正本のみに存在していたため失われてしまいした。仮に副本データまでも消失していたら、戸籍データが完全に失われてしまうことになり、業務上大きな問題が発生してしまうところでした。

 こうした状況を踏まえ、法務省は戸籍副本データ管理システムの構築にあたり、戸籍副本データを、全国3カ所に設ける法務局サーバーに月次で遠隔バックアップする仕組みを検討しています。システムは2013年度に本格稼働する予定です。

広域災害にも対応可能

 遠隔バックアップは新しい概念ではありません。単に、バックアップの保存場所として遠隔地を活用するというだけのものです。

 バックアップとは、システムやデータ復旧・修復(リストア)に備えて、あらかじめ複製を作成しておくことです。通常のバックアップ方法でも、システム・データの損失に対してリストアが可能です。例えばDBサーバーの故障、サイバーテロやシステム操作時の人為的ミスによるデータ損失などの場合には、ユーザーの手元にバックアップが保管してあれば、リストアが可能です。

 一方で、大地震などのように被災範囲が広域となる災害が発生した場合には、バックアップ側も損失してしまうことが考えられます。そこで、広域災害が発生した場合でも重要なシステムやデータをリストアできるよう、バックアップの保管場所を遠隔地にしたものが遠隔バックアップです。

 なお、遠隔バックアップの導入は、それ単体で検討すべきものではありません。BCP(業務継続計画)やDRの一環としてバックアップの要件を検討する際に、費用対効果などを考慮して検討を進める必要があります。